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かんたんに分子標的薬ってなに?

方針イメージ

 がん治療の大きな柱が外科治療であるというのはたしかにその通りです。しかし、外科治療は全身麻酔下で体の一部を切除する治療なので、できたら選択したくないというのもふつうの心情です。もしも「薬を飲むだけでがん細胞だけがなくなってがんがなおっちゃう」という夢のような薬があれば最高です。その夢に一歩でも近づくために日々医学は進歩しています。そして、その夢の形の一つとして分子標的薬の開発が人の医学の分野で盛んに行われています。獣医領域で効果が検証されている分子標的薬はまだそれほどありません。獣医領域において分子標的薬はこれまでメジャーな薬ではありませんでした。腫瘍に詳しい病院で人医学用の薬、輸入した薬を処方されるという形をとられていました。しかし、今年ついに獣医師専用の分子標的薬(トセラニブ)が発売される予定です。今年(2014年)は動物にとっての分子標的薬元年ともいえるのです。
 ここではかんたんに分子標的薬ってなんなのか?を考えてみます。当サイトでは恒例ですが、ネット上でだらだらと長い文章を読む気がほとんどおきない方のため太字だけ見たら分かった気になるように構成します。


分子標的薬ってなんなの?

 従来の抗がん剤というのはそもそも、がん細胞のみをたたく薬ではありません。抗がん剤は細胞分裂の盛んながん細胞の分裂を阻害することによってがん細胞を減数する薬です。がん細胞は通常細胞に対して細胞分裂が盛んなので、その分裂頻度の差を利用して抗がん剤は効果を発揮しています。裏を返せば、分裂を盛んにしてないがん細胞には効果があまりありません。そして、通常でも髪の毛根の細胞、腸の細胞、骨髄細胞は盛んに細胞分裂しているのでこのような生体活動に必要な細胞にまでもダメージを与えてしまいます。正常組織への障害も大きいのが従来の抗がん剤の特徴です。正常組織への障害の例として、毛が抜ける、下痢・嘔吐、白血球の減少などが挙げられます。抗がん剤はがん細胞であろうとなかろうと分裂の盛んな不特定多数の細胞にダメージを与えます
 それに対し分子標的薬は、がん細胞にある特定の分子に対して作用する薬です。がん細胞のみに出現している特定の目印を見つけてそれに働きかけて細胞増殖を止めます。
分子標的薬はがん細胞という特定の細胞のみに効果を示すために副作用が従来の抗がん剤に比べて少なくなります(ないわけではない!)

どんな腫瘍に使えるの?

 獣医学領域で効果が検証されている腫瘍はいくつかありますが、その中でイマチニブを用いた肥満細胞腫の治療をここでは紹介いたします。
 まずは、イマチニブの薬効原理をかなりものすごく簡単に説明します。
イマチニブはKITという細胞膜にある受容体を標的としています。肥満細胞腫の一部(3割くらい)では、このKITがぶっ壊れて(変異)しまっています。このぶっ壊れたKITは狂ったようにひたすら核に対して細胞増殖シグナルを出し続けます。そのためどんどん腫瘍が大きくなります。イマチニブはこのぶっ壊れたKITからでる細胞増殖シグナルを止めるようにがっちりブロックします。それによって腫瘍の増殖を抑えます。KITがぶっ壊れているかどうかはその設計図を見れば分かります。KITの設計図にあたるのがc-KITという遺伝子です。c-KITという設計図を見ればKITがぶっ壊れているのかが分かります。c-KITがおかしい(c-KIT変異)とKITがぶっ壊れているのです。
 この薬効原理から考えると、イマチニブはどんな肥満細胞腫にも効果があるのではありません。ぶっ壊れたKITを持っている肥満細胞腫に対してよく効きます。換言すれば、その
設計図であるc-kit遺伝子に変異のある肥満細胞腫にはイマチニブという分子標的薬がかなり高い確率でよく効くということが分かってきています。ただし、実際にはc-kit遺伝子に変異がなくても効果ある例はあります。
 
c-kit遺伝子に変異があるのかどうかはイマチニブ使用前に遺伝子検査を実施することで分かるようになっています。イマチニブはその使用前に薬剤の有効性を予測できるというのが従来の抗がん剤と違う大きな特徴の一つと言えます。
 c-kit変異のある肥満細胞腫にイマニチブが効果があるとはいえど、イマチニブによる治療は、それで完治を期待できるというものではないし、今までの治療に置き換わる程の革命的なものでもありません。
肥満細胞腫の数ある治療選択肢のうちの一つとして捉えた方がよいと思います。
 
肥満細胞腫というのは、外科治療、化学治療、放射線治療、免疫療法などを組み合わせた総合的な治療が必要な腫瘍だと私は思っています。この中の化学治療に分子標的薬という可能性のある武器が加わったという考え方がよいと思います。

イマチニブのメリット・デメリット(犬の肥満細胞腫)

 肥満細胞腫でイマチニブを使うメリット・デメリットを考えてみます。メリットは、他のやり方では治療をあきらめざるをえなかったワンちゃんに対して新しい治療選択肢を提示できるということです。そして、効果のあるものにはスパッと切れ味よく効く(残念ながら効かないものには効かない)ことです。それでいて抗がん剤のような副作用が少ない。特にワンちゃんは副作用がほとんどない。イマチニブである程度腫瘍を小さくしてから、外科治療で取り除くといった方法も検討できます。
 もう一つは前述しましたが、
イマチニブはその使用前にc-KIT変異の遺伝子検査を通して薬剤の有効性を予測できるということです。最近では、再発を繰り返すものや、組織学的に悪い肥満細胞腫などではc-KIT変異のある確率が高いことも分かってきています。
 デメリットは、まず価格です。分子標的薬は一般的に高価な薬剤です。それを毎日投薬となるとオーナー様の費用負担はかなり重くなります。最近、イマチニブのジェネリックが発売されたためにそれを使えば多少負担は減りますがそれでもなお
一般薬に対してかなり割高だと思います。
 そして、耐性の問題です。c-KIT変異のある肥満細胞腫に対しては切れ味のよい薬ではありますが、その効果がずっと続くのではなくどこかで効かなくなる例があることが分かってきています。
数ヶ月で耐性ができる場合もあります。するとまた別の分子標的薬の検討が必要になります。

イマチニブのまとめ(犬の肥満細胞腫)

 肥満細胞腫治療において、分子標的薬であるイマチニブは非常にいい薬であるとは思いますが、まだまだ第一選択できる夢の薬ではありません。完治を狙える薬でもありません。小さい単発の肥満細胞腫に対していきなりイマチニブは適応ではありません。
 分子標的薬全般に言えることですが、まだまだ獣医領域では適応、効果、副作用について分からないところが多い薬です。しかし、
がんの全身転移などでこれ以上の治療をあきらめていたワンちゃん・ネコちゃんに対してもう一踏ん張りできる可能性を与える薬でもあると思っています。これから様々な新しい知見が次々にでてくる薬だと思うので日々勉強を続けて、少しでも動物達の力になれるように精進していきたいと思っています。


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