犬や猫が食べると中毒を引き起こす食物
かんたんにいうと、
犬や猫が食べてはいけないもの
は数多く存在します。
~その具体例はGoogle様で検索すればいくらでも見つかると思うのでこの記事での紹介は割愛します~
では、
その中でも多くのオーナー様によく知られているものは何かなぁ?と考える時、真っ先に思い浮かぶのが
玉ねぎとチョコレート
です。
実際、
「ワンちゃんが玉ねぎ入りのおいしいものを食べてしまった…どうすれば?」
「机に置いてあったチョコレートを食べてしまったかもしれない…どうしようか?」
というような電話相談をオーナー様からいただくことはあります。
電話だけではなく、
「玉ねぎ入りのおいしいものを食べてしまった」という主訴で来院されるオーナー様も(稀なことではなく)いらっしゃいます。
こんな感じなので、
「玉ねぎとチョコレートは犬や猫が食べてはいけないもの」ということがオーナー様の間でよく認知されているのは間違いないと思います。
~ブドウやアボカド、その他食べてはいけないものについての電話相談or来院が少ない中、玉ねぎとチョコレートは群を抜いて多いのでこういうことからも認知度は高いと思います~
今回は、犬と猫のネギ(玉ねぎ)中毒、特に玉ねぎ中毒について私の経験を通した個人的見解を書いていきたいと思います。
①ネギ類全部食べちゃダメ!
「犬・猫=玉ねぎダメ」という印象が強いために玉ねぎだけが食べたらいけないものと誤解している方がいるかもしれません。
しかし、そうではなくて
毒性の強弱はあれど、犬・猫はネギ類全般を食べてはいけません。
ネギ類全般、例えば、
・ロングネギもダメだし、ニラもダメ、ニラレバ炒めなんてもっとダメ!
・エシャロットなんて家庭にそうそう並ぶものではないと思いますがこれもダメ!
・沖縄に行くと私はよく島らっきょうを食べるのですが、らっきょうもダメ!
・ヤング時代になりますが、私はにんにくマシマシで二郎系ラーメンをよく食べていました。そんな、ニンニクも絶対にダメ!
とにかくネギ類を食べることは危険です。
その中でも、玉ねぎとニンニクは特に絶対にダメな食べ物です。
~ちなみに、玉ねぎの皮もいいか悪いかで言えばよくないです~
補足として、
ネギ類はどんな調理方法でもダメです。
燻製にしようが、フライにしようが、炒めようが、煮ようが、みじん切りにして圧力鍋でおいしく作ろうがその毒性に変わりはありません。
どんな調理方法でも毒性が消えないところがネギ(玉ねぎ)中毒の厄介なところです。
さすがに、
ロングネギや玉ねぎの生をかじって食べた犬猫の事例を目にすることはあまりありません。
~しかし、あるにはあります…~
生のニラにかじりついた、生のニンニクを食べたという事例も同様です。
大部分は、
ハンバーグを食べてしまった!カレーのついたご飯食べてしまった!という感じです。
~玉ねぎ入りの肉じゃがの汁をのんだというのもあります~
なので、
いろいろなおいしい料理に隠れて使われているという点でネギ類の中でも玉ねぎが最も誤食しやすいのかなと思います。
②犬が玉ねぎを食べてしまった…少量…
どんなにオーナー様が気を付けていたとしても、予期せず犬が玉ねぎ(入りの食事)を食べてしまう
ことは稀なことではありません。
例えば、
(前述しましたが)玉ねぎの入ったハンバーグ、肉じゃが、カレーを食べてしまったという事例は比較的よくあることです。
~(肉じゃがなどの)玉ねぎエキスの入った汁を舐めるor飲んでしまった。どうしたらいいだろう?という相談も受けます~
では、
玉ねぎが入った食物を犬が食べたらどうしたらいいのか?どうなるのか?少量だったら大丈夫なのか?ということを私なりに考えてみます。
③玉ねぎを食べてすぐであれば、催吐処置の適応可否を判断
もしも玉ねぎ(ネギ類)を食べてしまったら…
それが体に吸収される前に、
言い換えると、
それが胃の中にあるうちに、
嘔吐という形にはなりますが、体外に出すことができれば中毒症状を回避or軽減できる可能性が高まります。
食べたものが胃にとどまっている時間を考えると、摂取後2~3時間以内に何らかの薬物を使用して胃内容物を嘔吐させることができれば中毒回避or軽減に有効になります。
~獣医師の適応判断のもと、何らかの薬物を使用して胃内容物を嘔吐させる処置のことを催吐処置といいます~
~摂取後の経過時間によっては胃内容物の有無をエコーで確認してから催吐処置の適応を判断することもあります~
~食べて半日以上経過していると催吐処置の効果はほぼなくなってしまいます~
催吐処置は摂取してからの時間が短ければ短いほど中毒防止効果が高まるので、玉ねぎ(ネギ類)を食べてしまったと気付いたらすぐにかかりつけの動物病院で催吐処置の適応可否を相談してみたほうがいいかなと思います。
~大量に食べたことがはっきり分かる場合には胃洗浄が適応になることもあります~
ここで気を付けたいのは、
催吐処置で嘔吐したとして胃の中のすべてを嘔吐できたとは限らないので、嘔吐=これで大丈夫!と言い切れません。
~そもそも催吐処置自体、必ず安全な処置ではないこともオーナー様にはご理解いただきたいです~
ちなみに、
悪いものor異物を食べたらなんでもかんでも催吐処置というわけではありません。
例えば、
ボタン電池や先の尖ったものの誤食では催吐処置によって、より状況が悪化することもあります。
↑今回は掲載する写真がなかったのですが、それでは寂しいのであえて催吐処置に関する薬の写真を掲載しました。オキシドールはドラッグストアでも購入できるものですがオーナー様判断で催吐に使うことは基本的にやめたほうがいいです。誤嚥の可能性、消化管の粘膜へのダメージを考えると軽々使えるようなものではありません。特に、猫に対しては絶対に使用してはいけません。横のトラネキサム酸は獣医療では催吐処置に比較的よく使われていてある程度の安全性を担保されてはいるのですが、絶対安全というものではありません。基礎疾患などをよく考えて使用します。そもそも、獣医療において絶対安全な処置は存在しません。催吐処置にもリスクは存在します。
④玉ねぎの摂取量はいちおう中毒の目安になる
様々な教科書によると、犬の玉ねぎの中毒量は15~30g/kgと記載されているのでこの量は一つの目安になると思います。
そのために、
犬が玉ねぎを食べたという主訴で来院されたオーナー様には玉ねぎを食べた(or食べたかもしれない)量を必ず問診します。
オーナー様の中には、
玉ねぎを食べた量が少なかったらセーフ、多かったらアウト
と考えている方がいるかもしれませんが、そうとも限りません。
たとえ、少量でも数日して真っ赤な尿、その後貧血といった症状がでた犬の経験もあるし、逆に大量に食べた(と思われる)のに一週間経過しても無症状でその後も問題なかった経験もあります。
~犬の玉ねぎ中毒量15~30g/kgを絶対的なものではなく目安として捉えているのはこういうことからでもあります~
要するに、
少量でも危険なことはあるということです。
一部の犬種、例えば秋田犬、柴犬ではネギ類に対して遺伝的に感受性が高いという報告を考えると、
これらの犬種以外でも遺伝的に感受性が高い犬が存在して、少量でも中毒症状が起こりうると考えるのは不自然ではありません。
そもそも、
オーナー様が考える玉ねぎを食べた量はあくまで推定量である場合が多いので、実際は考えている以上に食べていることがあってもおかしくありません。
~正確な摂取量はわからないことがほとんどです。特に料理に加工されているとわかりません。少量と思っていたけど実は多かったもありえます。その逆もありえます~
以上のことから、
玉ねぎ(ネギ類)を食べてしまったor食べたかもしれない時はその量に関係なく(摂取量は参考程度と考えて)1週間は要観察です。
~玉ねぎ(ネギ類)を食べてすぐであれば、催吐処置のことを考えてすぐに病院受診です~
⑤要観察といっても何に注目するのか?症状は?
まず最初に知ってもらいたいことは、
玉ねぎ(ネギ類)の中毒症状は食べてすぐにはでません。
何らかの症状がでるとしたら、経験的に2日前後経ってからです。
そして、
その初期症状は非特異的消化器症状がほとんどです。
例えば、
食欲がない、嘔吐・下痢、お腹がいたそう、なんか元気がないというような他の様々な病気でもみられる症状です。
~貧血の初期ではオーナー様がすぐに気付ける(貧血の)臨床症状はありません~
非特異的だからこそ、
上記症状があったからといって玉ねぎ(ネギ類)中毒とはいいきれません。
とはいえ、
病院受診を考えるサインにはなります。
これら消化器症状に加えて、
口の粘膜の色やおしっこの色にも要注目です。
その色への違和感もまた、病院受診を考えるサインにはなります。
もしも、
数日前に玉ねぎ(ネギ類)を食べてしまったor食べたかもしれない+上記のサイン
で来院していただいたとしたら
身体検査だけでなく、血液検査などその他必要な検査も提案します。
血液検査では、赤血球がダメージを受けていないかということを血液塗抹標本を用いて観察することもします。
~貧血が進行する前の初期で治療を開始するためです~
次に、その治療について軽く触れます。
⑥玉ねぎ(ネギ類)中毒に対する解毒剤は存在しない!
ネギ中毒の毒素である有機硫化化合物に対する解毒剤は存在しません。
ということで、
その治療は直接的にネギ毒を消す(解毒する)のではなく
(1)いかに玉ねぎ(ネギ類)の毒素を体に吸収させないようにするか!
(2)中毒症状が出た場合には対症療法をしっかりおこなうか!
というこの2点が中心になります。
少し具体的に…
(1)に対しては、
・食べて数時間以内であれば催吐処置の適応可否判断
・催吐処置の後、クレメジンのような活性炭を投薬することにより、毒素を少しでも炭に吸着させて排出することも考えます。
(2)に対しては、
・消化器症状かあればそれに対する通常の対症療法
~下痢嘔吐によりハードな脱水がある場合は積極的な輸液療法~
・溶血により真っ赤な尿がでている時は腎臓を守るために積極的な輸液療法
・貧血の度合いによっては輸血が必要になることがあります。
このような対症治療をすることで、重症でなければ摂取1週間後あたりから多くの犬で少しづつ回復に向かいます。
全体的にここまで犬についての記事ばかりになりましたが…
ちなみに、
⑦猫はネギ類の毒素に弱い
ネギ類を食べてしまった(orかもしれない)猫、ましてや玉ねぎ(ネギ類)中毒の猫を診察したことが(記憶にある限り)私は一度もありません。
そのため経験から言えることはないですが、教科書では猫はネギ類の毒素に非常に弱いことが書かれています。
玉ねぎだとほんのちょっとの量でも中毒を起こしうるので、猫のオーナー様は玉ねぎ・にんにくを代表とするネギ類、特にネギ系の料理の管理には気を付けていただきたいと思います。
~玉ねぎの猫の中毒量は5g/kgと記載されている。犬より全然少ないです~
ネギ(玉ねぎ)中毒の症状、サイン、治療などの大筋は犬の場合と大差ありません。
⑧まとめ
犬のネギ中毒、特に玉ねぎ中毒については個体差が非常に大きいといつも感じます。
過去には、
玉ねぎの味噌汁をごはんにかけていつも食べていたのに何の問題もなかった雑種の犬も診ましたし、ハンバーグエキスをちょっと舐めただけで中毒症状をおこした犬も診ました。
玉ねぎを食べた量だけでその中毒を予想できないなぁと私は考えています。
犬と猫のネギ(玉ねぎ)中毒への私の基本スタンスは、
・ネギ類、そしてネギ類を使ったおいしい料理を犬や猫が食べないようにとにかくその管理を家庭でしっかりする!
~管理にも限界があるとは思いますが…~
もし、食べてしまったら
・ネギ(玉ねぎ)を摂取してすぐなら催吐処置の適応可否を判断
・摂取から時間が経っているなら、(場合によっては活性炭を投薬しながら)臨床症状が発現するかどうかを要観察
~催吐処置後も安心せずに、同じようにしばらく要観察~
・中毒症状(orそれを匂わすサイン)が出現したら各種検査と徹底的な対症療法
です。
ネギ類(玉ねぎ)を食べた量にかかわらず、もしもの時は動物の様子をよく観察していただきたく思います。
現実的には玉ねぎ料理を少量食べた程度では催吐処置なしでも、なにも起こらないことが多いのですが…
ただ何が起こるか分からないところもあるので中毒症状を匂わすサインがないか?をその後よく観察することがとっても重要です。