続 イヌの僧帽弁閉鎖不全症(ステージB)の診断と治療

 今回の記事は、2年ちょっと前に書いたイヌの僧帽弁閉鎖不全症(ステージB)の診断と治療の続編です。

 犬の僧帽弁閉鎖不全症の診療をずっと継続していく中で

 治療についてはそうでもないですが、診断については2年前と比べてもう少しこうしたらいいのでは?のような感じで心境に少し変化がでてきました。

 その変化について具体的になにがどう変化したのかを思いつくままに書いていきます。
 ~どちらかというと診断にフォーカスした記事になります~

なお、

 この記事は続編なので、前回記事をまずは読んでいただいた方がわかりやすい内容になります。

①何を測ればいいの?

 2年前の記事では、

VLAS(脊椎左心房サイズ)の計測してみよう♪

LVIDDN(体重補正左室拡張末期径)も測ってみよう♪

LA/Ao(左心房大動脈径比)も測ってみよう♪

心臓系バイオマーカー検査はやめておこう♪

 のような感じで、複数の項目を計測していますよ♪ってことを記事の中で紹介しました。

 犬の僧帽弁閉鎖不全症のステージB2診断基準に沿った形で複数の項目を計測するようにしているという話でした。

 2年経った今でもこれらの項目はできる限り計測するようにはしています。

ただ、

 各項目について計測しやすさ、しにくさor計測値の安定性の差みたいなものを感じるようになってきたので

 ステージB2を診断するにあたってどの項目の計測値に重きを置いたらよさそうか?

 を考えるようになりました。

2年前は、

 各項目の計測値を平等に(濃淡付けずに)扱っていたのですが
 ~平等だからこそ診断に迷いがでることもよくありました~

今では、

 (ステージB2の診断の為には)この項目の計測値を少し重視したらいいのではないか!

 と日々の経験や学習から考えるようになりました。

なので、

 各項目の計測値の扱い方にやや濃淡を付けています。

では、具体的に…

②少し重視する項目は?

 私はLVIDDN(体重補正左室拡張末期径)の数値を少し重視するようにしています。
 ~他の項目を無視しているわけでは決してありません~

もちろん、

 LVIDDNだけで全てを決めるわけではありません。

 ステージB2の診断の為にこの計測値をやや濃い目に扱っているというだけです。

では、

 なぜLVIDDNを少し重視するようになったかというと、

 計測値にブレが少ない!

 と私が思うからです。
 ~ただの個人的見解です~

 LVIDDN以外の項目、

例えば、

 心臓エコーでの計測項目である

・LA/Ao(左心房大動脈径比)は…

 心拍動のどの時相でどの断面でどこからどこまで計測するかによってブレがでます。

正確に言うと、

 私の心臓エコーの技術では数値にブレがそこそこでてしまいます。
 ~ブレるのはあなたのエコーが下手だからでしょ!と言われたらそれまでですが~

だから、

 LA/Aoを教科書通り計測して数値を極力出しますが…

その数値よりも

 最初に心基底部短軸断面を描出した時の印象で何倍なのか?というパッと見の感覚を私はけっこう重視しています。
 ~左心房系が大動脈径の何倍なのか?1.6倍を超えていそうなのか?を感覚で判断します~
 ~こういうことは良いか悪いかで言えばよくないのですが、パッと見の印象で何倍なのか?の感覚は大事だと思います~

 レントゲン画像での計測項目である

・VLAS(脊椎左心房サイズ)は…

 教科書等によるとVLASは、

 気管分岐部腹側縁中心から左心房と後大静脈背側縁が交わっているところまでの距離が第4胸椎体の長さの何倍か?の値

 となっているのですが、

 そもそもレントゲン画像で後大静脈がはっきり見えない時もあるので

 いつもいつでもきちんと測定できないなぁ

 というのが私の感想です。
 ~可能な限りは値をだしますが~

 どこをどうとって計測するのかで値にブレがでます。
 ~どデカく値が変わるってことはないですが~

同じように、

 VHS(心臓脊椎サイズ)もどこをどうとって計測するのかで多少値にブレがでます。
 ~犬種補正したとしても犬種によって評価は変わると思うし…~

こういう項目に比べて、

 LVIDDNは、安定してブレが少な目で計測できると私は感じています。

なぜならば、

 エコーに心電図を同期させていると、いつどこをどうとって計測するのかに迷うことがあまりないから

 というのもあるし、

 エコーにおいて左室短軸像を比較的きれいに描出しやすいから

 というのもあります。

そんなこんななので、

 LVIDDN以外の項目の数値がステージ基準のボーダーラインをうろちょろしている時は

 臨床症状と身体検査所見+LVIDDNの値でステージを暫定診断することもあります。
 ~当院での心臓エコー検査ではLVIDDNは必須で計測しています~

③心臓バイオマーカー検査

 2年前の記事では、

 心臓系バイオマーカー検査はやめておこう♪

 と書いていましたが

 昨年、チェックマンNT-proANPという検査キットが発売されたので

 このキットを用いた簡易的な心臓バイオマーカー検査を当院で実施するようになりました。

↑心臓系の医薬品なのでやっぱり赤からピンク基調の箱です。無難にいいデザインですね。

 NT-proANPは心房筋への伸展刺激によって放出されるホルモンです。

 この数値は、特に左心房への負荷状況を反映しているとされています。
 ~要するに高値であれば左心房への負荷がけっこうある=ステージが進んでいるということにいちおうはなります~

 このホルモンが高値なのか、そうでないのかを血漿から簡便に短時間で判定できるのがこのキットです。

 具体的なNT-proANPの数値は分からないという欠点はあれど、

 院内で血液からすぐに(20分で)高値かどうかを判定できるというのが非常によいところだと思います。

↑チェックマンNT-proANPの実物写真。結果判定はTestのところの線の濃さで判定します。その濃さが基準となる線の濃さと同じなのか薄いのか濃いのかの判定に主観が入るのが難しいところだなぁって感じです。微妙な時は見る人によって判定がブレると私は思います。どうみても濃いよな!という時は問題ありませんが。

 このキットの誕生により、私が2年前に感じていた…

 院内で測れるわけもなく、サンプルを作成して検査センターに提出して…検査費用もかかるし…時間もかかるし…

 という検査を躊躇する点をある程度克服できました。

 心臓病のステージ診断をする上で、
 ~どんな病気の診断でもそうなのですが~

 様々な側面から診て総合的に診断すること

 は非常に重要だと思うので、この検査キットの結果をその側面の1つとして今後も使っていこうと私は思っています。
 ~ステージB2を診断するための一助になります~
 ~様々な側面からという点で様々な項目をエコーやレントゲンで計測することにも意味があります~

ちなみに、

 チェックマンNT-proANPだけで粘液腫様変性僧帽弁疾患(MMVD)のステージ診断をすることは原則しません。
 ~キットだけである程度しないといけない状況も例外的にけっこうあるにはありますが~
 ~NT-proANPは腎臓病の時に高値を示すこともあるし、血圧にも左右されます~

 どんな時も血液検査だけでもう他の検査なんていらないや!

 というものではありません。

↑Testのところの線の濃さの判定で色見本カードと比べて同じか薄いか微妙な時もあります。人によっては薄いと言うし、人によっては同じと言うしみたいな感じです。まぁだからこそ、このキットだけで診断できないということになります。他の検査所見も含めた総合判断が大切です。線の濃さとステージの関係は私にはまだわかりません。高値かそうでないかを調べる定性検査として評価しています。

あくまで、

 数ある心臓検査のうちの1つ

 と捉えていただきたく思います。

④ステージCかどうかは?

 おまけの内容になますが、

 ステージB2診断後にステージCに移行したor移行しそうか?の判断は、
 ~言い換えれば肺水腫になっているor肺水腫になりそうなのか?の判断~

 左室拡張に伴い左房の血流が流入するときのその速さ=E波に注目しています。

 当院の心臓エコーでは基本的にE波の速度をできるかぎり計測しています。

あとそれと、

 肺エコーの所見も参考にしています。

⑤で、結局は…

 ここまで計測項目、数値のことについて散々ごちゃごちゃ書いておきながらですが
 ~読んでもなにも面白くなかったと思います~

結局は、

 身体検査に勝る検査はなし!

 というところにたどり着きます。

 動物の心臓の状態がエコーやレントゲンで計測するこまかい数値だけで決められるわけではないので

 それに振り回されず、まずは動物をよく見ることを優先させたいと思います。
 ~問診、視診、聴診、打診、触診、呼吸数、体温などなどから得られる情報はいっぱいあります~

 各種計測項目の客観的な数値を参考にしつつ、

 臨床症状や一般身体検査所見をふまえ診断・治療を決定するのが重要だと日々痛感します。

 当院記事を読んだ上で心臓病の診断や治療を希望されるオーナー様は絶対必ず副院長を指名しての来院をお願いいたします。


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2025年01月31日