今年も犬のフィラリア予防のシーズンに入っています。
「もうフィラリアなんて過去の病気!」
「一生懸命予防しなくても大丈夫!」
と考えるオーナー様も、もしかしたらいらっしゃるかもしれませんが、
いやいや、
全然そんなことありません!
フィラリアはきっちり予防したほうがいい感染症です。
フィラリアは過去の病気なんかではありません。
フィラリアに感染したからといってすぐに命に関わるわけではありませんが、ジワリジワリと犬の体をむしばんでいきます。
~感染から時間が経過すればなにかしらの症状はでます。そして命に関わります~
では、
①予防せず、もしもの時治療するのはどう?
「物価高の今、フィラリア予防には費用がかかるし今年はやめておこうかな」
「フィラリアなんかめったにないことだし、予防せずになった時に治療したらそれでいいんじゃない?」
…たしかに治療法はゼロではないので、そういう考えを私は否定しません。
予防するもしないもオーナー様の自由です。
ただ、
予防しないという選択を獣医師の私からおすすめすることはありません。
なんでこんなに犬のフィラリア予防をおすすめするのか?
ってことに対する私の考えを思いつくままに書いてみます。
➁かんたんに駆除できない!
心臓に寄生したフィラリア成虫を引きずり出すことはハイリスクかつ非常に困難な処置です。
~そもそも、フィラリアを心臓から鉗子で引きずり出すなんてことは一般の動物病院ではまずやりません~
飲み薬で駆除することも困難が伴います。
~そもそも成虫駆除薬が日本国内でかんたんに手に入らないし、その取扱いにも気をつかいます~
~仮に駆除薬を輸入して駆除したとしても、死んだ虫体が残ってしまうのでそれに対する対策も必要です~
~成虫駆除薬でいっきにフィラリアが全滅すること自体この上ないリスクです~
このように、
フィラリア成虫に対しては成す術なし
といっても過言ではありません。
~正確に言うと「高い安全性を担保したうえでフィラリア成虫を駆除することはできない=成す術なし」です~
じゃあ、私たちの完全敗北なのかというとそうではなくて
できることは1つあります。
それは、
フィラリア成虫の寿命を待つこと
です。
「えっそれだけ!」
って思うかもしれませんが、比較的ローリスクでなんとかするためにはそれだけです。
3~5年といわれるフィラリア成虫の寿命がくるのを待つだけです。
③そんなに待ってられないよ!
寿命を待つだけとはいえ、3~5年なんて悠長に待っていられません。
なぜならば、
フィラリア成虫が心臓(≒肺動脈)に長く居座れば居座るほど肺の血管のダメージが大きくなるからです。
~フィラリアが寄生している数やどれくらいの期間居座っているか?によって、犬フィラリア症の重症度は変わります~
3~5年も待っていたら取り返しのつかないことがおきてしまうかもしれません。
肺の血管をズタボロにされる前=肺の血管に取り返しのつかないダメージが加わる前になるべく早く寿命を迎えてもらいたいものです。
~3~5年も待っていたら取り返しのつかないことがおきてしまうかもしれません~
なので、
フィラリア成虫の寿命が少しでも短くなるような治療
をします。
例えば、
・フィラリアにこれ以上感染するのを防ぐ(寄生数を増やさない)
・フィラリア成虫を弱らせる
といった目的で
フィラリア予防薬(イベルメクチン製剤など)を通年で投与する=フィラリアの通年予防
~ミクロフィラリアを考慮してアナフィラキシー対策をしながら投与する~
をします。
近年では、
フィラリア成虫に仲良くくっついているボルバキアという細菌を叩きのめすことによって間接的にフィラリアを弱らせる
~フィラリアとボルバキアは仲良くいっしょに悪いことをしています~
~ボルバキアという共生関係の仲間を失ったフィラリアの落胆は大きく、はやく寿命を迎えてしまいます~
という目的で抗生物質を投与したりもします。
こんな感じの…
寿命が少しでも短くなるような治療によって軽症のフィラリア症であるならば予後が悪くないこともあります。
~寿命を短くしながら、ゆっくりとフィラリア成虫数を減らすことでなんとかなることもあります~
とはいえ、
大なり小なり心臓や肺の血管へのダメージは残るので、何事もなかったように完全回復とまでにはなりません。
ちなみに、
どんな治療をしたにせよ3~5年の寿命が1ヶ月の寿命になるってわけではありません。
~どんなに短くしても数ヶ月から1年の寿命になる感じです~
④やっぱ、もしもの時の治療でいいんじゃないの?
軽症のフィラリア症であれば(治療によって)なんとかなるかも!
とすれば…
「やっぱ、もしもの時の治療でいいじゃん!」
「フィラリアに感染してから熱心に通年予防すればいいじゃん!」
「もう、いっそのこと気が向いた時に予防薬飲ませるくらいでいいや!」
「とにかく、物価高が…」
ってオーナー様もいるかもしれません。

↑前にも掲載したミクロフィラリアの顕微鏡写真。フィラリア感染犬の末梢血中にこんな虫が多数います。とにかく静止画にするとわかりづらいのがミクロフィラリアの特徴です。
繰り返しにはなりますが、
治療・予防の選択は最終的にオーナー様の判断になるので、それでよいならばそれでもよいと思います。
マンションの高いところに住んでいる、外に出ないなど飼育環境によっては熱心に予防する必要がないと考えるオーナー様も存在するでしょう。
でも、
ここまで読んでいただくとご理解いただけると思うのですが
⑤予防の方がはるかにかんたん
フィラリア感染→フィラリア症の治療(or駆除)は非常にめちゃくちゃ困難で厄介です。
重症になればハイリスクかつ集学的な治療が必要になります。
軽症だとしても、フィラリアが(心臓や肺の血管に)いる限りいつ何時何が起きるかもわかりません。
そして、
それを乗り越えたとしてどんな後遺症が残るかもわかりません。
治療の困難さやリスク、対応の複雑さに比べると
明らかに予防することの方が楽でかんたんです。
フィラリア症で苦しみながら亡くなってしまった犬を何度も見ているからこそ、予防をおすすめしています。
・フィラリア症になった時の大変さ>>>>>>>>フィラリア予防の手間・費用・予防薬の副作用
・知らぬ間にどこからともなく紛れ込んで犬を吸血する蚊の能力>>>>>>>>ここでは蚊に刺されないだろうというオーナー様の自信
だと私は考えます。
私の考えるフィラリア予防をおすすめする理由の本質は
(特に地方の町では)フィラリアがよくある存在であること
とともに、
フィラリアに感染した時の危険性や治療の困難さとその予防の簡便さや確実性
この2つの落差が激しいことだと思います。
かんたんに言えば、
「こんなに怖くて厄介な(稀ではない)病気なのに予防はめちゃくちゃ楽じゃん」
「じゃあ、予防したほうがいいよね♪」
ってことです。
回虫や条虫などの腸内寄生虫であれば
「かかったら駆除しましょう」
で済むかもしれませんが
フィラリアにおいては「駆除しましょう」がかんたんには通用しません。
「かかる前に予防しましょう」
なのです。
そもそも、
(感情論になりますが)フィラリアやミクロフィラリアが犬の血中にいるって嫌じゃないですか?
ミクロフィラリアがどんなものか見たことないオーナー様のために
私が個人的に趣味で動画を作成しました。
興味のある方は見てみてください。
動くミクロフィラリアってどんなの?
↑ここ数か月で診断したフィラリア症例のミクロフィラリア動画です。こんな虫が大量に血液中を動き回っています。顕微鏡の接眼レンズにiPhoneレンズを手でくっつけて撮影した動画なので若干見にくいのはお許しください。
⑥ほぼほぼ100%予防可能
フィラリアは適切な投薬によりほぼほぼ100%予防可能です。
イヌのフィラリア予防薬には、様々なタイプがあります。
よくあるタイプの月に1度飲むお薬、フロントラインのように皮膚に塗るスポットタイプのお薬、年に1度注射で予防するお薬。
~月に1度飲むお薬にも錠剤タイプ、チュアブルタイプといったバリエーションが存在します~
そして、
フィラリア予防だけではなく、腸内寄生虫駆除・ノミダニ予防駆除もまとめてできるお薬=オールインワンのお薬。
~CMでおなじみのネクスガードスペクトラさんやクレデリオプラスさんはそういうオールインワンのお薬です~
思いつくだけでこんなタイプがあります。
当たり前ですが、
どのタイプを選んだとしてもフィラリアを予防できる点は共通です。
投与しやすさ、利便性、嗜好性、価格、付加価値(ノミダニ予防駆除もできるみたいな)などを考えて予防薬を選択していただければと思います。
ちなみに、
当院では、月に1度飲むおやつタイプの薬が今年も主流です。
たしかに、
オールインワンのお薬を希望されるオーナー様は年々増加傾向にありますが、全体からいえば未だ少数です。
~ネクスガードスペクトラさんについては指名買いされるオーナー様が圧倒的多数です~
⑦フィラリア予防注射
ここからは1度の注射でフィラリアを通年予防できるお薬の準備を今年度もしていますよ!というお知らせになります。
↑毎年恒例のプロハート12の写真。薬剤吸引にほんとに力がいります。おおげさではなく…ドロドロです。
めちゃくちゃかんたんにフィラリア予防注射のメリットを言うと…
フィラリアを確実に通年予防できること
だと思います。
「しまった、今月飲ませ忘れた!」
「あれ、いつも何日に飲ませてたっけ?」
ってことが注射だとなくなります。
なので、
(きちんと年に1度注射すれば)予期せぬフィラリア感染の可能性を排除できます。
フィラリア予防期間は一般的には4月から11月、場合によっては12月までが目安ですが、年々温暖化がすすむ日本のことを考えると「絶対、真冬に感染しない!」とはいいきれません。
万全を期した通年予防も考える時期に入ってきているかもしれません。
そういう点でフィラリア予防注射はけっこういいのかなぁと思います。
次にデメリットを考えると…
予防注射による重篤な副反応の可能性だと思います。
~安全性を最優先するオーナー様は注射以外のタイプのお薬をおすすめします~
フィラリア予防注射の重篤な副反応というのは、稀ではありますが可能性としては0ではありません。
~フィラリア予防の注射(プロハート12)における重篤な副反応を当院では経験したことがありません~
ワンちゃんの年齢、全身状態、アレルギー歴などなどを十分に考慮した上での注射が重要になります。
そういう点で、
どんな犬にでも注射できるわけではない!という点もデメリットかもしれません。
当院では1年に1度のフィラリア予防の注射(プロハート12)を積極的に推進しているわけではないのですが、オーナー様の希望があれば対応できるように準備しています。
具体的に言うと、
当院では毎年4月5月にフィラリア予防の注射(プロハート12)をいつでも予約なしで注射できるように準備してあります。
~6月くらいまで対応できる年もありますが…~
最後に何があっても伝えたいことは!
フィラリアを予防しよう!というオーナー様の気持ちが犬の命を守ることにつながる!
ということです。
確実に予防できる病気は確実に予防してみてはいかがでしょうか?