ネコの瓜実条虫症

 猫の内部寄生虫の中で当院で一番よく目にするのが猫の瓜実条虫(≒サナダムシ)です。
 ~瓜実条虫のことをサナダムシと呼ぶこともあります~

 最もポピュラーな猫の内部寄生虫=瓜実条虫(≒サナダムシ)といっても過言ではないと思います。

 今回は猫の瓜実条虫症についての個人的見解を思いつくままに書いていきたいと思います。

①診断に難しさはない

 回虫や鈎虫そしてコクシジウムなどの内部寄生虫では糞便検査から卵を検出して診断するというケースがほとんどです。

しかし、

 瓜実条虫では虫体そのもの(片節)を発見して診断するというケースがほとんどです。

要するに、

 鏡検や浮遊法といった糞便検査なしでもある程度診断可能です。
 ~厳密には片節を鏡検して卵嚢や特徴的な虫卵を確認することも必要です~

ちなみに、

 50㎝前後ある長~い虫体が猫のお尻からでてくることはめったにありません。
 ~長~いのを見たのは私がこの仕事を始めてから数回しかありません~

 長~い虫体の老いた片節がちぎれてお尻からでてくることがほとんどです。
 ~長~い虫体がちぎれたもの=片節です~

猫の瓜実条虫(サナダムシ)

↑昔、当院で採取した条虫(サナダムシ)を軽くホルマリンにつけたもの。条虫の種類は忘れました。猫からでてきたことだけは確かです。こんな長いのがきれいにでてくることはめったにありません。ほとんどの場合、節みたいにみえるところでちぎれて外に出てきます。

②瓜実条虫はノミから感染!

では、

 瓜実条虫はどうやって猫に感染するのでしょうか?

 「お尻から出た米粒みたいな白い片節を猫が食べることで感染するのでは?」

 と思うオーナー様もいらっしゃるかもしれませんが、それは違います。

 瓜実条虫は猫がノミを飲み込むことによって感染します。
 ~正確には瓜実条虫に感染した(擬嚢尾虫をもつ)ノミを飲み込むことによって感染します~

③瓜実条虫のライフサイクル

 「なんでノミから感染するの?」ということを理解していただく上で、どうしても必要な知識は瓜実条虫のライフサイクルです。

 まずは、このライフサイクルを超かんたんに箇条書きします。

・猫のお尻(肛門)から外界にでてきた米粒みたいな白い片節
          ↓
・なんと!この片節内に虫卵が存在
          ↓
・片節がぶっ壊れることで虫卵が飛び出す
          ↓
・この虫卵をノミの幼虫が摂取することによってノミの体内で孵化
 ~この虫卵は外界に放っておいても孵化しない!~
 ~猫の体内で孵化することもない!~
          ↓
・孵化した虫はノミの体内で成長、そしてノミ自身も幼虫から成長
          ↓
・孵化した虫は擬嚢尾虫と呼ばれる形態までノミの体内で成長
 ~ちなみにノミの体内では擬嚢尾虫より先の形態には成長できません!~
          ↓
・そうこうするうちにノミ自身もいつしか大人に
          ↓
・擬嚢尾虫を持つノミがその辺をうろつく
          ↓
・何かの拍子に擬嚢尾虫を持つ大人のノミを猫が飲み込む
          ↓
・すると、猫の体内(小腸粘膜)で擬嚢尾虫が成長を始める!
          ↓
・あれよあれよという間(3週間程度)に擬嚢尾虫から成虫に成長
          ↓
・瓜実条虫の成虫が猫の小腸で生活していくうちに片節がちぎれる
          ↓
・ちぎれた片節は小腸から大腸そして直腸を旅してついに肛門へ
          ↓
・猫のお尻(肛門)から外界にでてきた白い片節=年老いた片節
          ↓
以後、上に戻って同じことの繰り返し

 ザっとこんな感じのライフサイクルです。

 ノミが瓜実条虫の感染にどう関係しているのか?がなんとなく理解していただけたでしょうか。

 瓜実条虫はノミ(を代表とする中間宿主)の摂取なくして猫に感染しません。

だからこそ、

 ノミ(を代表とする中間宿主)と絶縁している猫が瓜実条虫に感染することは原則ありません。

要するに、

 ノミがいなけりゃ猫に瓜実条虫はいない!

逆に言うと、

 猫に瓜実条虫がいれば、どっかでノミと接触している!

 ということです。

では、

④瓜実条虫症の臨床症状は?

 そんなこんなの瓜実条虫ですが、成猫に感染してもほとんどの例で症状がでません。

 無症状です。

 瓜実条虫が原因で成猫に消化器症状(下痢・嘔吐・食欲不振など)がでることはまずありません。
 ~私は経験したことないですが、大量寄生においては腸炎を起こすこともあります~

このことは、

 瓜実条虫症における主訴の大部分が、

・なんの問題もなく元気にごはん食べている猫のお尻周りに白い小さな虫(片節)を発見

・いつも猫が座っているところにゴマみたいのがいっぱい落ちてる

 という点と合致していると思います。

乾燥してゴマみたいな猫の瓜実条虫の片節(猫のサナダムシ)

↑乾燥した瓜実条虫の片節。こんなゴマみたいなのが猫の座るクッションなどでたくさん確認されたらまずは条虫を疑ってください。上の写真の片節は乾燥してカリカリになっています。肛門から出てきたときは白いですが乾燥したら茶色くなります。

私個人的には、

 瓜実条虫症=たいした症状がない…けど肛門からでてくる虫はとにかく気持ちのいいものではない

 という認識です。

⑤瓜実条虫症に自然治癒は?

 無症状が多い瓜実条虫症ですが、自然治癒はないこともないと思います。
 ~ここでいう自然治癒とは瓜実条虫が治療なしで駆虫されることを意味します~

ただ、

 自然治癒するためにはノミとの絶縁が必要です。
 ~再感染を防ぐために通年での徹底したノミ予防が必須~
 ~徹底したノミ予防をしている時点でそれを自然治癒といっていいのかは疑問ですが…~

 ノミと完全に縁を切ることができれば、1年以内に瓜実条虫が寿命を迎えて死んでしまうので結果的に駆虫されます。
 ~再感染がなければ駆虫されます~

 このように自然?治癒もなくはないとはいえ、一刻も早く駆虫したいのが人情です。

 そのために駆虫薬を用いた治療をします。

⑥治療(駆虫=駆除)薬=プラジクアンテル製剤

 一刻も早く瓜実条虫をやっつける(駆虫する)ためには猫にプラジクアンテル製剤を投薬します。

 プラジクアンテルという薬の一般名ではピン!とこないかもしれませんが、「ドロンなんちゃら」というと「あぁあれか」となる方もいる気がします。

 ドロンシットやドロンタールといった製品名の薬が瓜実条虫の駆虫によく使われるプラジクアンテル製剤です。

犬と猫のドロンシット注とドロンシット錠(プラジクアンテル)

↑毎度おなじみのドロンさんです。ドロンシット注の供給はたまに不安定になったりします。ドロンだけにドロッとした注射液になります。

私の経験上の話にはなりますが、

 ドロンシットという錠剤を一度飲むだけで高い確率で駆虫完了します。
 ~当院では投薬から2~3週間たってまだ瓜実条虫がでてくるようならもう一度投薬することにしています~

 駆虫薬により死んでしまった虫は消化されることもあるし、ドロッと溶けたみたいな感じででてくることもあります。

 瓜実条虫症の治療は決して難しいものではありません。

しかし、

 ドロンシット錠には苦いという欠点もあるので猫への投薬が難しいことがたまにあります。

 このような場合はドロンシット注射液を注射して駆虫することも可能です。

 経口投与にしても注射での投与にしてもその効果に大差はありません。

 オーナー様の都合やそれぞれの猫にあった方法を選んでいただくのが一番です。

そして近頃では、

 「ドロンなんちゃら」に加えて

 瓜実条虫にも駆虫効果があるスポットオン製剤

たとえば、

 商品名「ブロードライン」や「ネクスガードキャットコンボ」といったよいお薬もあるのでこれらを駆虫に使用することも一つの選択肢です。

 よりかんたんに投薬できると思います。

⑦ノミと絶縁しよう!

前述していますが、

 瓜実条虫とノミは密接に関係しています。

 どんなに瓜実条虫を駆虫したところで猫の周りにノミがうろついていたら再感染することがあります。

 ノミと絶縁しない限り瓜実条虫と絶縁できません!

そのためにも、

 ドロン系を使用するときは必ずノミ駆除・予防もしていただきたい!と強く思います。

同時に、

 できればノミがいそうな環境に猫が近づけないようにしていただけたらなぁと思います。

繰り返ししつこいですが、

 瓜実条虫をやっつけることとノミの駆除・予防は必ずセット!です。

 そうしないと高確率で再感染します。

 瓜実条虫駆虫+ノミの駆除・予防を一度にセットでできるという点で「ブロードライン」や「ネクスガードキャットコンボ」というお薬は便利かなぁと思います。

⑧ブロードライン VS ネクスガードキャットコンボ

 紹介した「ブロードライン」「ネクスガードキャットコンボ」どちらがよいのか?と言うと…

 瓜実条虫症治療の点においては、はっきり言ってどちらもよいです。

しかし、

 いろいろと差もあります。

 瓜実条虫根絶に必要不可欠なノミへの対応という点で両者を比較すると…

・ネクスガードキャットコンボにはエサフォキソラネルがノミ駆除成分として含有されているので強力にノミを駆除してくれます。
 エサフォキソラネルのようなイソキサゾリン系薬剤は比較的新しい薬剤です~

それに比べて、

・ブロードラインにはフィプロニルとメトプレンがノミ駆除(+孵化阻害+変態阻害)成分として含有されています。

フィプロニルは長年使われてきた成分のためノミ駆除力がほんのちょっとだけ心配かな?という思いがあります。
 メトプレン含有の有無もブロードラインとネクスガードキャットとの違いの一つです~
 ~ネクスガードキャットの効能効果はノミの駆除、ブロードラインの効能効果はノミの駆除とノミ卵の孵化阻害+ノミ幼虫の変態阻害です~

 こんな感じです。

 瓜実条虫を駆虫できることは同じとして、

・ノミの駆除成分の違い

そして、

ネクスガードキャットコンボは妊娠及び授乳期でも使用可能な点

さらに

・ブロードラインが終売してしまった点

 を考えるとスポットオン製剤で治療するならば、将来的にはネクスガードキャットコンボを主として使用することになるかなぁと思います。

ブロードラインとネクスガードキャットコンボ

↑ブロードラインはあくまでもフロントラインシリーズの延長線上にある商品です。あえて任天堂のハードに例えてみると…フロントラインシリーズがWiiでブロードラインがWiiUにあたります。ネクスガードキャットコンボがswitchになります。WiiUもswitchもどちらもおもしろいゲームはあります。ただ、switchの方がグラフィックもいいし携帯機としても遊べるしなにかといい感じです。ブロードラインが引退するのもいろいろな事情で仕方ないかなと思います。

なお、

 ブロードラインは在庫がある限り来年後半までは当院で使用可能です。

 当院では状況に応じて両者を選択していきます。

⑨瓜実条虫は人にも寄生する?

最後に、

 人にも瓜実条虫が感染するのかということにほんの少し触れておきます。

 瓜実条虫はノミを介して人にも感染します。

ただ、

 私が調べる限りそれは稀なようです。
 ~人間の腸は瓜実条虫にとって住みやすい環境ではありません~

 まさかノミを故意に食べる大人はいないと思うので感染を大きく心配する必要はないと思います。
 ~動物を触った後に常識の範囲内で手洗いをしていれば大丈夫だと私は認識しています~

しかしながら、

 ノミを偶発的に摂取するかもしれない小さな子供のいる家庭では少し注意が必要かなと思います。
 ~小さな子供のいる家庭では徹底したノミの予防や手洗いをしていただきたいと思います~

余談ですが、

 ノミを素手でつぶしたり爪でつぶしたりするのはやめたほうがいいと思います。

なぜならば、

 擬嚢尾虫がいるノミをつぶしてしまうと環境中に虫卵をばらまくことになりかねないからです。

 そんな虫卵を人や猫が摂取してしまうと最悪感染してしまいます。

 もし、ノミを素手や爪でつぶした場合は手や爪を徹底洗浄してください。

猫の情報
2024年01月28日