「今時、猫にシラミなんているの?もういないのでは?」
~以下、この記事の一部を除いてほとんどの部分で「シラミ」=「ネコハジラミ」としてお読み下さい~
そんな風に思われている方も多いとは思いますが、当院では月に1度あるかないか程度に(猫のシラミを)発見します。
私個人的には全然まだまだ今でも(猫のシラミは)存在するという認識です。
決して稀なものではありません。
とはいえ、
完全室内飼いの猫でシラミをみることはほぼ皆無です。
ノラ猫や地域猫、まだ小さい保護猫が圧倒的多数です。
~動物病院の立地によってはシラミを見たことない獣医師もいなくはないだろうと思います~
当院ではノラ猫や地域猫の避妊去勢手術を積極的に実施していることもあって猫のシラミ発見確率が高めなのかもしれません。
~猫のシラミ発見時はそれが院内で拡がることがないように必要な対応をしています~
今回は猫のシラミについて知っていただきたいことを(個人的見解を含めながら)書いていきます。
①シラミ=宿主特異性が強い!
シラミは好き嫌いがはっきりしている昆虫で、好きな(相性の合う)動物にしか原則寄生しません。
~ここでいうシラミとはシラミ類一般のことでネコハジラミだけをさすわけではありません~
どの動物が好きなのかはシラミの種類ごとに決まっています。
たとえば、
猫に寄生するネコハジラミは猫にしか寄生しません。
ネコハジラミが人や犬にくっついてきてもそこではまともな生活をできずに数日で死んでしまいます。
逆に、
人間のアタマジラミが犬や猫にくっついても同様です。
②感染は接触から
以前紹介した猫の瓜実条虫と違って感染経路はシンプルです。
ネコハジラミと猫の接触で感染が成立します。
~グルーミングの道具を通して接触・感染することもありえます~
感染経路は接触です。
なので、
ネコハジラミと接触しなければ感染することはありません。
普通に室内で生活していたらまず感染することはない!というのはこういう理由です。
ネコハジラミとの接触を避けるという点では、
~シラミだけでなくその他の感染症も予防する点でも~
外の猫を保護してすぐに何も確かめずに家の中の猫と接触させるのは要注意です。
少なくとも一度は動物病院で健康診断を受けた上で経過を見ながら家の中の猫と接触させることをおすすめします。
③診断もシンプル!
診断も実にシンプルです。
顕微鏡で虫そのものを確認したらいいだけです。
~顕微鏡を使わずに虫メガネだけでも診断できなくはないと思います~
猫の被毛に付着していた+虫の形からネコハジラミと診断できます。
↑当院で撮影したネコハジラミ。顕微鏡で見ると虫体はこんな感じです。シラミという昆虫はそれぞれに興味深い形態をしています。
↑あんまりきれいに撮れてなくて分かりにくいですがネコハジラミの卵と思われるもの。こんな卵みたいのもたくさん発見されます。
④疑うことが重要!
上記のようにその診断は比較的かんたんです。
しかし、
最初にそれを疑うことができなければ(いくらかんたんとはいえ)診断にたどり着きません。
だからこそ、
猫のシラミ症で一番大切なことは疑うことだと思います。
疑わなければ、
「被毛の汚れ、フケみたいなものだろう」
ということでずっと放置されてしまいます。
例えば、
・保護した猫の毛にフケのようなものがいっぱいついている
↓
・まあ、様子見ようorシャンプーでもしようか
で終わってしまうかもしれません。
↑猫の被毛に付いたネコハジラミその①。なにも知らなければただの汚れ、フケに見えるかもしれません。毛に付いた汚れみたいなのが全てハジラミです。
↑猫の被毛に付いたネコハジラミその②。とにかくいろいろな所に無数にハジラミが付着しています。慣れればすぐに気付けると思います。虫メガネでよく見たらこの小さいのがなんなのかが分かります。
もしここで、シラミという虫を知っていて疑うことができれば、
・保護した猫の毛にフケのようなものがいっぱいついている
↓
・シラミかもしれないので、そのフケみたいなのを虫眼鏡で見てみよう!
or
・シラミかもしれないので、とりあえず動物病院で健康診断を受けてみよう!
となると思います。
このように、
猫の被毛に寄生しているシラミが、どんな感じでどんなビジュアルなのかを知っているか知らないかでその後の対応に大きく差がでてきます。
⑤ネコのシラミ症の症状は?
猫のシラミ症に特異的な症状はないと私は思います。
~「この症状=シラミ」みたいなものはないと思います~
しかしながら、
(あえて言うと)被毛にシラミがついていることこそが特異的症状だと言えなくもないです。
では、
特異的とまではいかなくとも、シラミ症のなんらかの症状は?と言えば…
シラミは程度の差こそあれ、猫に皮膚トラブル(かゆみ、炎症、脱毛など)を起こしうる外部寄生虫です。
そして、
大量寄生であれば猫に貧血を引き起こすこともありえます。
要するに、
皮膚トラブルや貧血がなんらかの症状です。
ただ、
私はこのような症状(シラミを原因とする)がハードな例をあまり診たことがありません。
実際によく診る例は、
・シラミが被毛にいっぱいついている。
・被毛や皮膚の状態はそれほど良くない。
・貧血はなし。
という感じです。
↑ネコハジラミというのは不思議なもんでオスの睾丸近くによく集まります。去勢のために剃毛して消毒したらこんな感じでネコハジラミが浮かび上がることがあります。この写真のなんか褐色のブツブツみたいなのがすべてネコハジラミです。
では、少し見方を変えて「どんな猫にシラミがついていることが多いのか?」を経験から考えてみると…
・ノラ猫など外で主に生活している猫
・栄養状態が悪い猫
・疥癬などの他の皮膚疾患を持つ猫
・道端等で保護される生まれて数か月以内の子猫
パッと思いつく限りこんな感じです。
⑥ネコのシラミ症の治療は?
・シラミがついている被毛をすべて毛刈りする
というのも治療ですが、さすがに丸刈りは…ということでこんな治療はしません。
~部分的に寄生しているというのであれば毛刈りもありかもしれません~
・ドギツイ駆虫薬、農薬みたいな薬で薬浴する
というのも治療ですが、あまりにもいろいろと危険な治療法のため絶対しません。
そんなこんなで現在は、
・治療効果が報告されている各種スポットオン製剤で治療する
~フロントラインプラスキャットには効能・効果として猫のハジラミ駆除が明記されています~
という治療が当院では主です。
適切に薬を使用すればネコのシラミ症は完治(駆除)できます。
⑦まとめ
たぶん、ほとんどのオーナー様がネコハジラミを一度も見たことがないだろうし、この先見る機会もほとんどないだろうとは思います。
しかしながら、
ネコハジラミはこの世から根絶されたわけではなく、過去にそういうのあったなぁ~的な思い出の寄生虫でもありません。
なので、
全然知らないよりは知っておいた方がいいし知っておいて損はないと思います。
この記事を通してネコハジラミがどんなものなのか少しでも理解していただけると光栄です。