★今回の記事は私が日々の診療で思ったことを思いつくままに書いています。学術的な内容はほぼありません。
子猫の健康診断時、当院ではルーティンで糞便検査を推奨しています。
便の状態が悪かろうと良かろうと
栄養状態が悪かろうと良かろうと
とにかく、
まずは糞便検査を一度はしてみることを推奨しています。
~後日、2~3時間以内の新鮮な便を持ってきていただいてからの検査という形もとります~
~採便棒を使っての糞便検査は当院では原則していません~
「今時、おなかに寄生虫なんかいるの?」
「子猫に寄生虫なんて昔の話じゃないの?」
「症状もないのに糞便検査なんて必要ある?」
と思うオーナー様も存在するとは思いますが、
はっきりいって、
子猫(特に保護猫)に寄生虫はよくあることです。
高知県という土地柄もあるかもしれませんが、それはありふれています。
例えば、先日のことですが…
とある場所で保護された800gの子猫が健康診断のために来院しました。
かなり削痩していて「健康上の問題がありそうだな」とすぐに感じられる子猫でした。
一通りの身体検査と同時に、オーナー様が持参していた便を検査してみると…
↑その時iPhoneで撮影した顕微鏡写真。3種の虫卵がいました。
下記3種の寄生虫卵を検出しました。
↑まずはコクシジウムのオーシストの写真。子猫で非常によくある内部寄生虫です。あんまり臨床症状がでていないこともあります。
上の写真のようなコクシジウムのオーシストを子猫の便から検出するのは全然珍しいことではありません。
~当院の猫糞便検査で一番検出するのがコクシジウムです~
下痢や嘔吐、粘膜便、血便という消化器症状がなくとも、それを検出することがあります。
↑プロコックスという液体の飲み薬。猫への適応も加えてくれないかなぁと思っています。切れ味よく効果のある印象の薬です。液体なので投薬もそれほど苦にならないことが多いです。
近年は主にプロコックスというお薬で猫のコクシジウムを駆虫しています。
~猫にプロコックスを使用することは適応外使用になるので、オーナー様にそれを使用する意義を了承していただいた上で獣医師の裁量権により使用しています~
↑猫鉤虫の特徴的な卵。多細胞な感じです。
上の写真のような猫鉤虫卵を検出することはどちらかというと珍しいかなと思います。
子猫に猫鉤虫がハードに感染すると命に関わることがあるため、けっこう恐ろしい寄生虫です。
なので、
検出次第、なるべく早めに駆虫したほうがいい寄生虫です。
~消化器症状などがあるなら対症治療も同時に実施する必要があります~
↑犬鞭虫卵と毛細線虫卵はけっこうよく似ています。いろいろ違いはあるのですが私は明確に区別するのが苦手です。猫の糞便から毛細線虫卵というのはそうはないと思います。
上の写真は(自信はないですが)おそらく毛細線虫卵ではないだろうかと思います。
~もしかしたら犬鞭虫卵(orそれ以外)かもしれません。はっきりと何の虫卵か?がわかりませんでした~
~いずれにせよ大きなくくりで線虫の卵だと思います~
糞便中から毛細線虫卵を検出することは一般的にそう多くないことだと思っています。
実際、私は今回この卵を初めて見ました。
毛細線虫に適応をもつ動物用駆虫薬は日本に存在しないので猫(or犬)の線虫に効果のある薬のどれかで駆虫するしかありません。
今回の例のように、
(子猫の糞便から)
3種類の寄生虫卵を一度に検出することがよくあることなのかというとよくはありません。
しかし、
コクシジウムのオーシストと回虫卵のように2種類の寄生虫を一度に検出することは月に何度かあります。
コクシジウムのオーシストだけ検出、回虫卵だけ検出であれば、もはや日常の光景です。
こんな感じなので、
子猫の糞便検査を日々している当院の立場から言うと、
(内部寄生虫が)昔の話とは到底思えません。
やっぱり、
内部寄生虫は当たり前かつフツーに子猫で見かけるものです。
なので、
子猫の糞便検査はめっちゃ重要かつ必要な検査です。
子猫(特に保護猫)への獣医療対応は寄生虫がいるのか?いないのか?でまずは大きく2つに分かれる!
とさえも私は考えています。
子猫にいろいろな検査や治療をする前に、まずは糞便検査!って考えてしまいます。
ペットショップで購入した子猫までも「糞便検査が絶対だ!」とは思いませんが、
~ペットショップやペット移動販売を通してきた子猫から内部寄生虫を検出することも全然稀なことではありません~
できれば、
(糞便検査は)やったほうがいい検査です。
古典的な糞便検査を地道にする大切さは、高度獣医療が盛んな今においても色あせることがないなぁというのが私の感想です。
外部だろうと内部だろうとあらゆる寄生虫を除外なく疑うことを忘れないようにこれからも診療していきたいです。
~私が獣医師1年目、とある関東の病院であらゆる理不尽に耐えながら馬車馬のように働いていた時、難治性消化器症状の犬の症例がいました。「なにやってもずっと治らない」ということで先輩の先生方や院長の判断で大学病院に紹介しました。大学まで行って調べた結果、犬鉤虫でした。大学での糞便検査ですぐにわかりました。駆虫薬で治りました。恥ずべきことです。寄生虫を見逃したことは私も同罪です。こんなことが今後ないように、基本に忠実に診療していこうと思います~
ちなみに、
前述の3種類の寄生虫卵を一度に検出した子猫がその後どうなのったのかというと…
プロコックスを投与した10日後の糞便検査において寄生虫卵が完全に消えていました。
体重も増えだしてとても元気に育っています。