当院には様々な医療機器を設置しています。いろいろと新しい機器もありますが、古い機器もあります。機器にしろ、道具にしろ長い期間使用していくと愛着がわいてきます。機能性はさておいて、ひとつの道具を長く使っていくと多少不便さはあれど、その不便さもかわいくなってきたりします。
当院では、開院の日からずっと使用している機器があります。遠心機です。
↑歴史を感じる遠心機さんの姿。
遠心機とは、かんたんにいうと血清分離をしたり、尿沈渣のサンプルを作成する機械です。ただ、試験管を高速でぶん回すだけの機械とでも言えば分かりやすいでしょうか。
当院は、現院長が開院してあと数年で50年に達します。半世紀近くもこの小さな動物病院が診療し続けられているというのは、来院していただくオーナー様やこれまでのスタッフはじめ数えきれない多くの方々、そしてワンちゃん・ネコちゃんのお力添えあってのことだと思い、感謝し尽せない思いです。
それとともに、この遠心機は開業の日からずっと動き続けている機械であることを思うと、この遠心機にも感謝と畏敬の思いを伝えたいです。
↑遠心機さんの横顔。潔いくらいの地味な横顔。
そもそも、50年近く修理なしで動き続けるなんて、ものすごいことじゃないですか。ノーメンテナンス、ノー修理で50年近く働く機械なんて、それだけでこのマシンに頭が上がらないです。副院長の私より年上なんて…。
↑私の好きな後ろ姿。このレトロ感がたまらない魅力です。
もちろん、遠心機さんは年相応のガタがかなりきています。
スピードつまみはほぼデタラメです。どこがONかもわかりません。4が6かもしれないし、1が3かもしれません。ただ、回せばどっかで回転数は落ちるし、どっかで上がります。使用者の経験とカンの世界です。
タイマーつまみもほぼ適当です。3、6、9とか表示はあれど、単位が時間なのか秒なのか分なのかめちゃくちゃです。それもその日の気分で時間は変わります。マジで!?という感じで回ることもあります。遠心機さんの調子いい日は0でもずっと回ってます。
↑時々、つまみが無意味に360度フリーで回るのはご愛敬です。それでもスピードコントロールは機能します。
超アナログスピードメーターは正しいであろうと私は信じているのですが、たぶん誤差はあるのでしょう。
↑スピードメーターのこのアナログ感が最高です。
回転数は、遠心機がうなる音(爆音)で私はわかるようになってきました。1500回転、3000回転は遠心機さんとの付き合いが長くなると、その音と放つオーラで聞き分けられるようになります。
タイマーは、スマホのアプリで測ればまったく問題ありません。最悪、暴走したらコンセント抜いたら止まります。デジタルとアナログの融合ですね。
このようなどうしようもないポンコツなのですが、とにかく回すということに関しては確実に仕事します。血清もきちんと完璧に分離するし、尿沈渣もばっちり回してサンプルを作れます。とにかく感動ものの働きです。
令和のデジタル全盛の時代にこんなスーパーアナログな機械がなんか大好きだし愛着がわきます。小さな地味な仕事でもコツコツと着実にずっと継続することの大切さを教えてくれているように思います。
動物が高齢になってくると、病気と付き合いながら、無理に病気に抗うことなくそれを受け入れた上のできる範囲の治療、とにかく飼い主さんの傍にいられる時間を確保する、という私の臨床姿勢にも重なる気もします。
体が動き続ける限り、この遠心機さんには現役でいてほしいと思います。当院の歴史全てをみてきた唯一無二の存在なので。