★この記事は2022年6月17日と7月5日に加筆しています★
2021年6月2日に公開した記事への加筆です。加筆部分はきちんと提示しています。原文はそのままです。
ネコちゃんが比較的飲みやすいのではないかと最近思った錠剤があります。
プロラクト鉄タブという動物用健康補助食品です。いわゆるサプリメントに分類される錠剤です。

↑赤血球を意識したのか、鉄を意識したのか、赤基調のデザイン。洗練されたデザインです。「鉄は熱きうちに打て!」土佐塾さんのCMが脳裏にかすむ…
ネコちゃんでは慢性腎臓病にともなって貧血になってしまう場合があります。これを腎性貧血と呼びます。
腎臓で分泌されるエリスロポエチンというホルモンが不足することにより赤血球の産生が低下してしまう。
というのが原因の一つになります。
~ここから2022年6月17日加筆~
腎性貧血の原因としてエリスロポエチン不足を挙げてはいますが、もちろんそれだけではありません。
たとえば
・慢性腎臓病から続発する消化管からの慢性出血が原因のこともあるし
・食欲低下による栄養不足やタンパク異化亢進による尿毒症の悪化が赤血球の産生に影響を与えることもある
・リンパ腫など腫瘍性疾患が隠れていてそのせいで貧血が進行している
原因はもっといろいろありますが、腎性貧血といっても原因は様々で、その様々な原因が入り乱れてその結果として貧血という現症状がでていると考えるといいと思います。
原因はいろいろあれど、
エリスロポエチン不足が主な原因の腎性貧血の場合、貧血の進行はゆっくりであると考えられています。
こういう場合、
猫ちゃんも徐々に貧血に慣れていくために臨床症状があまりないという状況になります。
ネスプをどの段階で使用するのかという判断
~ヘマトクリット値だけで投薬開始判断をしていいのか?~
はけっこう難しいなといつも思っています。
最後までネスプを使用しない猫ちゃんが当院では多数です。
ネスプは安全な薬で、使えば一般状態が劇的改善!という薬では決してありません。
ひとつの薬剤に過剰な期待をされるオーナー様がたまにいらっしゃいますが貧血の病態というのはそんな単純なものではありません。
ネスプを使用することで期待される貧血改善効果と抗体産生、高血圧、血栓症、骨髄の障害などの悪い副作用
そもそもネスプを使っても思うような効果なしもありうるという可能性
こんなことを考えながら
いわゆるメリットとデメリットを天秤にかけること
が重要になります。
~2022年6月17日加筆はここまで~
この貧血が重度に進行した場合、ヒト用エリスロポエチン製剤を獣医師の裁量により使用することがあります。
不足しているエリスロポエチンを注射で補うイメージです。

↑獣医師の裁量で使用するネスプさん。昔、駄菓子屋にあった昭和の玩具、ロケット弾を思い出しました。
昔はエスポーという製剤をよく使用していたのですが、近年はネスプというエリスロポエチン製剤を使用しています。
なぜならば、ネスプはエスポーに比べて有害事象がすくない印象があり、さらに持続型製剤のために週に一度の注射で効果を発揮できるからです。ネスプは非常に使い勝手がよいと思います。
~ここから2022年6月17日加筆~
ネスプはエスポーに比べて副作用が少ないとはいえ、ないわけではありません。
そもそも
ヒトと猫のエリスロポエチン構造が8~9割近く似ているということからヒトのエリスロポエチン製剤を猫に使っており(適応外使用)
構造がすごく似ているからこそ猫にも造血効果を発揮するし、
似ているけども全く同じではないので異種タンパクと認識されて抗体が産生される危険性もあります。
~私はネスプの使用で大きな副作用に出会ったことはありませんが~
産生された抗体により骨髄にまで大きな障害がでて逆に貧血が進行する可能性もなくはないので投与中はよく猫ちゃんの様子を観察してモニタリングする必要があります。
もしも、
ネスプを投与していても貧血が全然改善しないというのなら、抗体の産生もありうるし鉄不足も考えます。
さらに別に隠れている疾患もあるのではないかも、もう一度考える必要があると思っています。
「他院での治療にはなるんですが、ネスプを使用しても貧血が改善しない」というご相談を実際に私が受けたこともあります。
~2022年6月17日加筆はここまで~
で、
ネスプを投与して赤血球の産生が再びはじまると、当然赤血球の材料が必要になります。
かんたんに言いかえると、
工場が動きだしても、材料・部品がないと製品を順調に製造できない。
ということです。
赤血球の産生において、材料・部品にあたるのが、鉄でありビタミンB群であり、葉酸などになります。ネスプを投与した時は、同時に鉄やビタミンB群、葉酸などを同時に投与すると造血に効果的です。
当院では、腎性貧血、とくにネスプ投与時にプロラクト鉄タブを症例によっては併用しています。
理由は、あくまで私が診る範囲内での話ですが、よく飲んでくれるからです。投与の確実性です。
正直、プロラクト鉄タブの1粒あたりの組成をみると、「鉄やビタミンなど用量が少ないかな?」とも最初は思いました。まあ、サプリメントなのでこんなものなのかなと。
ネスプ投与時は1日1粒では足りないと思います。プロラクト鉄タブ1粒では鉄などの用量が不足します。
しかし、サプリではなく薬剤であるフェロミアなど「フェなんちゃら」といった鉄剤、フォリアミンなどの葉酸剤、その他ビタミン剤に比べてよく飲んでくれます。
とにかく、飲まなきゃはじまりません。
1粒の用量が不足するなら、複数粒飲めばすこしでも用量を補えます。
プロラクト鉄タブはカマボコ風味らしいので、それもこの嗜好性に影響していると思います。

↑プロラクト鉄タブは、ほどよい大きさの錠剤。魚味のフレーバーが嗜好性に効果を発揮します。
ただでさえ慢性腎臓病で食欲が低下している状態なので、嗜好性の高い錠剤がいいように思います。
そんなこんなで、他の原因のネコちゃんの貧血に対しても場合によってはプロラクト鉄タブを使うこともあります。多少の副作用がでることもありますが、使いやすいサプリメントです。
こんなサプリメントもあるよということで、以上あくまでも私の個人的な感想、考えの話でした。
~ここから2022年6月17日加筆~
プロラクト鉄タブで私がよいと思うのは、鉄だけでなくビタミンB群・葉酸がバランスよく入っていることです。

↑組成表。絶対量というよりビタミンと鉄がバランスよく配合されているのがよいと思います。
慢性腎臓病のネコちゃんはただでさえ食欲が低下しているのでビタミンは常に不足気味だと思います。
ビタミンB群補充が貧血にどれだけ効果あるの?という声もあるかと思いますが水溶性ビタミンに害はないと思うので補充して悪いことは全くないと思います。
プロラクト鉄タブ単体で造血に関わるビタミンと鉄をいっしょに補えることはすごいメリットだと思います。
「便が黒くなることがある」とは注意書きに書かれていますが、プロラクト鉄タブで便が黒くなった猫ちゃんの報告を私は受けたことはありません。
今現在も、プロラクト鉄タブの嗜好性の高さは実感しています。

↑鉄剤フェロミアとプロラクト鉄タブの比較。錠剤の大きさと嗜好性が違います。鉄の量は一錠あたり5倍違いますがとにかく飲まなきゃ意味ないので…。
~2022年6月17日加筆はここまで~
~ここから2022年7月5日加筆~
先週、当院に入荷したプロラクト鉄タブを見るとパッケージが変わってました。
↑上が旧来品。下が新型。初見で箱がスリムになった!と思いました。すぐに組成を確認したのですが変化なしでした。
下が新型(ニューパッケージ)と思われるプロラクト鉄タブです。
なんか細長く薄くなった感じです。特にお知らせもなかったので驚きました。
組成表に変化ないので単純にパッケージが変わっただけと思います。
肝心の中身を見ると、
↑フォルテコールプラス的な佇まいだと思いました。両面アルミPTP包装の薬は、見た目から大きな錠剤の気がします。でも中身は見た目ほど大きくありません。
以前は錠剤が見えたのですが、新型パッケージは完全にアルミで覆われて錠剤が見えません。
難しくいうと両面アルミPTPに薬の包装が変化しました。
けっこうすごい進化であり改善だと思います。
両面アルミPTPにより、遮光性と防湿性がアップするので錠剤の劣化を最大限防ぐことができます。ビタミンB群と鉄、葉酸の保存性が格段にアップするような気がします。
裏面は、
↑犬と猫が手を取り合ってるようなイラスト。旧型の包装にイラストがなかったのでなんか華やかになりました。
裏面にイラストが入りました。イラスト好きの私としてはうれしい限りです。
地味に改良していくプロラクト鉄タブはすごいな!と思いました。
~2022年7月5日加筆はここまで~
猫の慢性腎臓病に伴う食欲低下に対する当院での対応についてはネコの食欲刺激剤~ミルタザピンの活用~の記事を下のボタンからご覧ください。
※ネコちゃんのいろいろな病気の診断・治療をまとめたページ「猫のこと」
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