2021年あたりからの当院における犬の多中心型リンパ腫の診断の変化についてご紹介いたします。
文章量削減に努めてはいるのですが、また文章が長すぎでした。かんたんに読みたい方は色付いた太字だけ目を通してください。
犬の多中心型リンパ腫の診断
犬の多中心型リンパ腫は、犬のリンパ腫の中でもかなりの割合を占めるリンパ腫です。
手で触れることのできる体表のリンパ節が複数(単一もあるが)大きくなるタイプのリンパ腫です。
体表リンパ節腫大を主訴にワンちゃんが来院された場合、獣医師としては常にリンパ腫も想定しなければいけません。その為、全身の精査を行います。
①腫れているリンパ節の中にはどんな細胞がいるかな?
②お腹の中や、胸の中のリンパ節も腫れていないかな?
③肝臓・脾臓の中はどんなになってるかな?
④全身の一般状態はどうかな?基礎疾患はないかな?
などなど
こんなことを念頭に各種検査を進めていきます。
腫れているリンパ節は腫瘍性であることもあるし、非腫瘍性なこともあります。
腫瘍性である場合は、①~④の検査を通して、臨床病期(ステージ)を決めます。
これらの流れは、私の中で10年くらい変わっていません。
では、なにが変わったのかというと
病理組織学的分類(WHO分類)を意識したリンパ腫の診断・治療を心がけるようになったことです。
リンパ系腫瘍は細かく病理組織分類(WHO分類)されています。
とはいえ、現時点では全ての分類タイプごとに病態・治療・予後が整理されていません。
ただ、いくつかの組織タイプについては理解が進んできました。
高悪性度(ハイグレード)リンパ腫の診断
以前から高悪性度(ハイグレード)リンパ腫と言われていたタイプは診断について変化なしです。
大きくなったリンパ節を細針生検してからの細胞診で診断をしています。
↑当院で過去に診断した高悪性度リンパ腫のリンパ節の細胞診写真。iphoneを顕微鏡の接眼レンズにあてて本日撮影。このような場合は組織分類でDLBCLだと思います。現在でもあえて切除生検しようとは思いません。
理想を言えばリンパ節を摘出して病理組織診断+免疫染色がよいとは思います。しかし、細胞診で大きなリンパ芽球が8割~9割でている場合は、その他の検査結果も総合して、
び漫性大細胞性B細胞性リンパ腫(DLBCL)
と暫定診断して治療に入ります。
病理組織診断なしでも、現時点ではその後の治療・予後に大きな違いが生まれないと私は認識しています。
低悪性度(ローグレード)リンパ腫の診断
変化したのは以前から低悪性度(ローグレード)リンパ腫と言われていたタイプの診断です。
近頃はIndolent(緩徐な)リンパ腫と呼ばれるタイプです。
過去には、細胞診をすると小型から中型のリンパ芽球が多くて、でも大型のリンパ芽球も散見といった所見で診断・治療を私自身迷っていたタイプのリンパ腫です。
↑当院で過去に診断した低悪性度リンパ腫のリンパ節の細胞診写真。この写真も過去のスライドから本日撮影。現在であればリンパ節の切除生検からの組織診断をオーナー様にお話しします。
クローナリティー検査の結果なども考慮して低悪性度(ローグレード)リンパ腫という暫定診断をして治療していました。
ただ、この低悪性度(ローグレード)リンパ腫にはいくつかの主要な組織タイプがあって、それぞれの挙動、性格、治療法が存在する可能性が徐々にわかってきました。
そうなると、全部ひっくるめて低悪性度リンパ腫として扱うより、きちんと病理組織分類をして診断・治療をしたほうがいいと思うようになりました。
ということで、
細胞診で低悪性度リンパ腫を疑う場合、リンパ節切除生検からの組織検査+免疫染色を次の検査の選択肢としてオーナー様に積極的に提案するようにしました。
そうすることで、より正確な治療計画や予後予測につながると思います。
MZL(マージナルゾーンリンパ腫 節性)、FL(フォリキュラータイプリンパ腫)、TZL(ティーゾーンリンパ腫)など、それぞれがどうなのかといった専門的な話・各論的な話はここでは割愛します。
ただ、それぞれのタイプに様々な知見が報告されています。
例えば、TZL(ティーゾーンリンパ腫)とMZL(マージナルゾーンリンパ腫 節性)では挙動、予後が変わってきます。
以上、この長文をスーパーかんたんにまとめると
リンパ腫の病理組織診断の重要性を年を追うごとに感じるなぁ
ということです。
犬のリンパ腫についての詳しい診断・治療を御希望されるオーナー様がいらっしゃいましたら必ず副院長指名で来院していただくようにお願いいたします。
↑恒例の長文の後の癒しのイラスト。当院スタッフのオリジナルイラスト原画。ぬっ子ちゃんライダー。鉛筆だけでこの画力!