犬に比べて猫の口腔内悪性黒色腫(メラノーマ)はかなり発生頻度が低い腫瘍だと思います。
発生頻度の低さもあってか、
私は今までの診療で猫の口腔内メラノーマをほとんど診察したことがありませんでした。
そんななか、
すこし前に、猫の口腔内悪性黒色腫(メラノーマ)を診察させていただく機会がありました。
他院から来られたネコちゃんで、病理組織検査で口腔内メラノーマと確定診断されているネコちゃんでした。
「メラノーマの切除後、再発しているのでどうしたらいいのか?」という内容の診察・相談でした。
今回は、猫の口腔内メラノーマの治療に臨んだ時のいろいろな思いを書きたいと思います。かなり主観に満ちた内容になると思います。
↑猫の左の上顎にできたメラノーマ。舌のようにみえる赤いのが腫瘤になります。乏色素性のため黒くはないです。オーナー様が病理組織診断書を持参された場合、そこに記載されていることの要点を丁寧に読み解いてオーナー様に説明するように私はしています。
基本的に猫の口腔内メラノーマは遠隔転移しやすく、局所でも非常に悪い動きをする腫瘍です。
生存期間中央値が数カ月ということからも、この腫瘍の凶悪さがわかると思います。
凶悪さの根源=強い局所浸潤+遠隔転移
ということで
治療の2本柱は「局所の制御」と「遠隔転移の抑制」になります。
今回は「局所の制御」という観点のみの話にします。
猫の口腔内悪性黒色腫(メラノーマ)の局所制御
猫の口腔内メラノーマというのは口腔内扁平上皮癌ほどではないとしても、かなり局所浸潤性が強い腫瘍です。
放置すると、口の中の腫瘤がどんどん大きくなり、腫瘤表面が潰瘍化・出血・化膿し、疼痛や物理的障害によりご飯がたべられなくなってしまいます。
口のにおいや出血などで、猫の生活の質もかなり下がってしまいます。
この局所の腫瘤をなんとかするには、外科的に大きく切除するしかない!
たしかにそうだ!
しかし、
治療選択肢として外科切除を挙げるけれども、積極的におすすめできるものではないと私は思います。
~そもそも私は、顔貌が極度にめっちゃ変化するようなアグレッシブな外科手術に消極的な獣医師だというのもあるのですが…~
顎骨ごと大きく腫瘤をとってしまうと、
腫瘤に対する苦しみは解放されるが、
・猫の顔の形が大きく変わってしまい
・自力でごはんを食べられなくなる可能性もある…
・腫瘤切除後も遠隔転移の可能性は残る…
外科治療で得るものと失うものの天秤を意識する必要があります。
天寿というものを意識した時に、どうすることがネコちゃんにとって最良の選択なのか?をいつもオーナー様と私はよく話し合うようにしています。
~遠隔転移率が低い腫瘍であれば徹底的な腫瘤切除(アグレッシブな外科)もよいとは思うのですが~
では、
放射線治療だと猫の負担は少ないのではないか?
と考えはするのですが
・そもそも高知県から放射線治療を毎週うけにいくこと自体がかんたんなことではない。
・放射線治療にどれほどの緩和効果やQOL維持向上効果があるのか?
・オルソボルテージ放射線でも一定の緩和効果あるとは思うが…
こんな感じで
いろいろな思いが頭をめぐります。
様々な条件があえば、とりいれてもよい治療かなと思います。
局所制御といっても、現実的に選択できる有効な治療法がない(特に地方の動物病院から)のが現状です。
当院のような一次診療施設でできることといえば、対症療法がほとんどになります。
局所を制御できない=腫瘍の増大をとめられない
けれども
少しでも猫ちゃんの苦しみを取り除いていく対症療法。
具体的には、
・痛みがつよいのなら痛み止め。レペタンの口腔粘膜投与なども実施します。
→痛みを取り除くだけでも猫ちゃんの生活の質はあがると思います。
・食べれない、飲めないなら様々な栄養指導・点滴など
・炎症を抑えるために抗炎症剤。
→非ステロイド系抗炎症剤によっては腫瘍増殖抑制効果もあるかもしれません。
↑比較的腫瘍疾患以外でも使うほうかなと思うピロキシカムという非ステロイド系抗炎症剤。当院では粉のお薬になります。猫に対して長期に使うのはしてないです。猫の口腔内メラノーマに対してどれだけ効果あるかは正直わかりません。たぶん抗腫瘍効果があるのかな?でも考えるなという感じです。
・腫瘍に対する免疫力をあげよう!
→免疫up系サプリメント
などなど
猫の口腔メラノーマのように極悪で治療困難な腫瘍の場合、
オーナー様も含めて治療に対して悲観的な気持ちになるとは思うのですが、
そんななかでも、
「このネコちゃんになにをしてあげられるかな?」
というところに視点を持っていって粘り強く、できる範囲で治療していくことが重要だと思います。
様々な困難な腫瘍で私自身悩むことは日々多いのですが、私とは比較にならないほど悩んで苦しんでいるのは動物、そしてオーナー様です。
私としては少しでも前向きにできること、すこしでもしてあげられることを共に考えて腫瘍とファイトしていきたいと思います。