当院では、陰嚢内に睾丸が一つしかないネコちゃんをたまに診察することがあります。
・去勢手術前の診察で発見することもあるし、
・野良ネコちゃんの場合、去勢手術時に「あれ?陰嚢内に睾丸がひとつしかない」
ということもあります。
陰嚢内に睾丸がひとつしかないということは、
もうひとつは
おなかの中や鼠径部にあることになり
※単精巣というのはかなり稀だと思います。
腹腔内の精巣が陰嚢まで下りてきていない異常
すなわち
潜在精巣(陰睾・停留精巣)と呼ばれる疾患(精巣奇形)になります。
ということで
猫の潜在精巣(陰睾・停留精巣)とはどんな疾患なのか?私なりにかんたんに紹介させていただきます。
私が思う猫の潜在精巣の10のコト
①一般的に遺伝性疾患とされる
潜在精巣がなぜ起きるのかは明確にはわかってないと思うのですが遺伝性疾患であることは確かのようです。
②とにかく無症状
陰嚢内に睾丸がひとつしかなくても特に日常生活に何の支障もありません。
犬と比べて潜在精巣に気づいていないオーナー様が多い気がします。
③経過観察してもマックス6か月
陰嚢内に睾丸がひとつしかない!ということで待てば陰嚢内に精巣が下りてくるじゃないかな?と様子をみてもいいとは思いますが
どんなに待ってもマックス生後半年して陰嚢内に下りてこなければ、もう下りてこないと思います。
④猫の潜在精巣が腹腔内にあることは少ない…気がする
私の経験上の話ですが、ネコちゃんの睾丸が陰嚢内にひとつしかない時
もうひとつは、鼠径部もしくは陰嚢頭側皮下にあることがほとんどでした。
⑤潜在精巣をほっとくとどうなる?
陰嚢以外に存在する睾丸(潜在精巣)をほっておいても短期的には何の支障もなし。
長期的には潜在精巣はかなり腫瘍化しやすいという報告があります。
ただ、ネコちゃんの腹腔内潜在精巣が腫瘍化したというのは私は生涯一例も見たことも聞いたこともありません。あくまで「私は!」です。
とはいえできるなら潜在精巣の場所が特定できるなら摘出するに越したことはないと思います。
⑥そもそも猫の精巣腫瘍自体がかなり稀な疾患
話がすこし脱線しますがネコちゃんの精巣腫瘍は報告があるもののかなり稀な疾患です。
潜在精巣であろうとなかろうと精巣腫瘍が少ない印象です。
犬に比べて猫の精巣腫瘍はかなり稀な腫瘍と思います。
⑦治療方法は精巣摘出
遺伝性疾患であることも考えて、隠れている睾丸を見つけ出して摘出することが最大の治療法になります。
⑧皮下にある精巣の摘出は比較的容易
腹腔内に精巣がある場合は摘出にともなう外科的侵襲が大きくなる傾向ですが、
陰嚢頭側皮下や鼠径部皮下にある場合は比較的容易に摘出できます。
↑当院で先日手術した潜在精巣の症例。皮下のふくらみの下に精巣があります。蝕知できる精巣の直上を切開して摘出します。
⑨精巣を触知できない=腹腔内潜在精巣の可能性あり
精巣を触知できないならば、エコーで探索したりCT検査で探索する必要があります。
~腹腔内潜在精巣だけでなく蝕知できない皮下に隠れている場合もあり~
⑩腹腔内にある精巣に生殖能力はない!
去勢手術で陰嚢内の睾丸を摘出して、もう片方の潜在精巣を発見できなかった(蝕知できる皮下にない)場合、
さらに精巣を探索するか、このまま経過観察するかになります。
仮に経過観察したとしても、腹腔内に精巣があればそのネコちゃんに生殖能力はありません。
当院では腹腔内潜在精巣が想定される場合、他院を紹介させていただく場合もあります。
ちなみに
精巣がねじれたりしなければ、腹腔内潜在精巣の早急な摘出は必要ないと思います。
まとめると
陰嚢内に睾丸がひとつしかない場合は、陰嚢外の精巣をとにかく探そう!
ほとんどの潜在精巣は触知できる皮下に存在
→摘出は容易
触知でどうしてもわからない場合(稀ではあるが)、できるかぎりのさらなる探索
それでも見つからなければ
当院では二次診療施設を紹介
もしくは
オーナー様との相談でそのまま経過観察
そもそも、(腹腔内)潜在精巣は早急な対応の必要はない!
~経過観察しても腹腔内の精巣に生殖能力はないが精巣が腫瘍化する確率が上昇する~
ということになります。