先日もワンちゃんの体表のしこりを主訴にオーナー様が来院されました。
↑約1センチほどの体表にできた今回のやわらかいしこり。「これが悪いものだったらどうしよう」というオーナー様の心配や不安に対して客観的かつ獣医学的な目で的確に寄り添おうと思います。
しこりの診察でオーナー様から必ず聞かれる
「このしこりなんですか?悪いんですか?」
という質問に対して私は
身体検査だけでは「これが何か?悪いのか?」はわかりません。
と答えます。
問診・視診・触診などでわかることは
「たぶん、良性っぽい病変だろう」や「肥満細胞腫もありえる」
というような経験とカンによる予想レベルのことです。
~経験とカンは馬鹿にできないところもあるのですが…~
予想レベルの診断で、「まぁ様子みてみましょう」「では、このしこりをすぐに切除して組織検査に出しましょう」
と提案することも必ずしも悪くはないと思うし場合によってはありだとは思いますが、
基本に忠実に今回も
診断・治療までのステップとしてまずはFNAと細胞診をしてみましょうと伝えてオーナー様の了解を得ました。
オーナー様の中にはFNAと細胞診に過大な期待をされる方がたまにいらっしゃいますが、
FNAと細胞診は数ある検査の中の1検査に過ぎないし、
ただの予想より根拠のある予想をするための検査
であることを伝えます。
大前提として細胞診というのは
このしこりが、腫瘍なのか?炎症なのか?
腫瘍だったら、どんなタイプのものか?すごく悪そうな腫瘍なのか?
こんなことがわかればもう十分お腹いっぱいな検査です。
ほとんどの例で確定診断なんてできません。
~独立円形細胞腫瘍では確定診断できる可能性はあります~
そもそもFNAからの細胞診は、
細い針でしこりを吸引して得られた細胞を染色して顕微鏡で観察するという特性上そのしこりのすべてを評価しているわけではありません。
針に入った細胞のみで診断しています。
腫瘍細胞をきちんと針で採材できず、周りの炎症部位を採材してしまえば炎症という結果になります。
この検査はあてにならないところある!単一で万能な検査ではない!限界があるんだ!
ということをオーナー様にご了承いただければ幸いです。
今回のワンちゃんから得られた細胞の顕微鏡写真は下の写真になります。
↑顕微鏡の接眼レンズに手でiPhoneをあてて私が撮影。特別な道具やマシンがなくても意外にそこそこ撮影できます。FNAでは取れ高がなさそうだなと思っても染色してみると有意な細胞塊が取れていることがよくあります。
炎症か腫瘍かで言えば腫瘍性。その中でも上皮性。どちらかといえば良性の腫瘍だろう。独立円形細胞腫瘍ではなく確定診断にいたるものではない。
という私なりの細胞診結果をオーナー様に伝えます。
そのことを伝えたうえで、
この診断は大きく間違ってはいないと思いますが、あくまで臨床医である私の診断なので念のために専門的な病理医の先生にも見ていただけますがどうしますか?
とオーナー様の判断を仰ぎます。いつもそうするようにしています。
今回のオーナー様は病理のコマーシャルラボへの提出も希望されたために病理医の先生にも見ていただきました。
そこで出された診断結果が
上皮性・腫瘍性疑いでした。
細胞診結果報告書には
嚢胞病変、母斑など非腫瘍性病変の可能性も記述されていて、さらなる精査には病理組織検査が必要です!
というのが書かれていました。
じゃあ、次にどうすりゃいいの?という話なのですが
オーナー様は次のステップの中で経過観察を選ばれました。
すぐに切除からの組織診断という選択もありうるのですが、
・FNAの時に液体がけっこう抜けてしこりがしぼんだこと
・得られた細胞にめっちゃ悪い顔をしたものがないこと
・しこりの増大傾向、一般状態・その他の検査結果
+私の経験からくるカン
これらを総合して考えて
オーナー様が切除を迷われているのであれば今すぐに急いで切除する必要がない
という結論になりました。
これはただのカンによる予想に基づくものではなく、根拠のある予想、状況証拠を積み上げて作りあげた治療プランになります。
FNAからの細胞診は万能ではないし、あてにならない側面もあるのですが、
~細胞診に提出すると診断書にはだいたい「より詳しい精査には病理組織検査が必要」と書かれる~
その他の様々な検査を組み合わせることでカンだけではない根拠のある予想ができる検査です。
しかも、
簡便で迅速にできる検査なので大切なワンちゃんのしこりを発見してどうしようか?と悩むもしくはいきなりの切除に迷われる場合はまずはFNAからの細胞診をご検討ください。
FNAからの細胞診は次のステップにいくための最高の踏み台になってくれると思います。
~細胞診さん、踏み台だ!なんて言ってごめんなさい。でも、おもいきり踏んで高く飛びます。それで許してください…~
↑元祖イヌのFNAと細胞診の記事。この記事とは違った味わいがあるのでご覧ください。