猫の不妊(避妊)手術、去勢手術は基本的な外科手術で難易度もそれほど高くないと思っているオーナー様も多くいらっしゃるとは思いますが、実はイレギュラーなケースも多々あります。
ネコちゃんの体格や年齢、子宮・卵巣の状態などなどの様々な要因によって、基本手技+様々なバリエーションがあります。その時々のネコちゃんの状態にあわせて麻酔や外科手技を微妙に変化させながら毎日手術を行っています。当院でも、相当な数の手術を担当させていただいているのですが、それでもなお、今でも新しい発見があるし、改善点・工夫はあります。
ここで、ネコちゃんの不妊(避妊)手術でのイレギュラーなケースの一例を紹介いたします。
統計をとっているわけではないのですが、月に1頭くらい(完全な私感)で、ネコちゃんの卵巣の下に、プチ卵巣みたいな数ミリの卵巣色の組織が存在することがあります。ずっとこれは何だろうな?と思っていました。
その組織に目視できる血管が入っているわけでもないし(写真では広間膜が圧縮気味なので入ってるように見えますが)、機能しているとは思えない佇まいなので毎回切除していました。もちろん、切除したからといって術後ネコちゃんに何かしら影響があったことはありません。
この謎の組織なのですが、先日とある機会があり病理組織診断に提出しました。すると
副副腎
という診断をうけました。
組織をみてみると確かに正常の副腎組織がばっちり形成されています。炎症や腫瘍性病変は全く存在しませんでした。
私の勉強不足もあると思いますが、副副腎というものがあることを私は知りませんでした。本来はありえない位置に副腎があるとは想像もできませんでした。副腎に正と副があるなんて…。副副腎は人間でも報告されています。
病理医に話を聞いてみると、年に数回くらいはその病理センターで診断することがあるようです。私のいままで見ていたものが副副腎だとしたら、実際もっと副副腎をもつネコちゃんはいるような気もします。いずれにせよこのようなレアな組織が腫瘍になると、診断が複雑になると思うので切除した方がよいと思いました。
猫の不妊(避妊)手術ひとつをとっても、まだまだ新しい発見がある手術だなと思いました。