どんな腫瘍かな?
犬や猫の腫瘍には様々なものがあります。そして、それぞれの腫瘍には特徴があります。最近はインターネットで腫瘍について検索すればすぐにその特徴を容易に調べることができます。よって似たようなことはここでは書きません。この「どんな腫瘍かな?」のページでは、通常のネット検索ではあまり出てこないような腫瘍の情報をわかりやすく書いてみようと思っています。個人的な考えや学術的統計をとっていない経験的なものも多数含まれますのでご了承ください。独自の切り口で「どんなんかな?」という疑問に答えてみます。
犬の原発性肺腫瘍との戦い
肺腫瘍と戦う前に、オーナー様達が抱いているであろう肺腫瘍へのイメージ(人間の肺がん的なイメージ)を変える必要があります。
第一に犬にとって原発性肺腫瘍はかなり稀な腫瘍であるということです。人ではよく聞きますが、犬ではそんなに見る腫瘍じゃないのです。別に悪性腫瘍があってそれが肺に転移したものであればまだ見る機会がありますが、肺に原発で現れる肺腫瘍というのはほんとに見る機会がありません。高齢の動物に稀に見られる腫瘍という位置づけです。
第二に不思議と症状がないものが多いです。要するに原発性肺腫瘍があっても元気です。咳、呼吸困難がありそうですがありません。症状がない(もちろんある例もあるが)ということは、発見が遅れるということですし、オーナー様が日々の生活で早期発見することが不可能ということです。他の目的で腹部のレントゲンを撮った際にたまたま端っこに写っているおかしな影によって発見ということもあります。定期的に、レントゲン検査でもしていないと早期発見が不可能なことが多いです。
そして第三に、単発で孤立している肺腫瘍以外は延命を期待することが非常に難しくなります。決定的な治療法が現状で確立されていません。
まず診断に関して言うと、一次診療施設での確定診断は難しいです。「肺に影がある。さあ、これはなんでしょうか?」正直、分かりません。腫瘍かもしれないし、炎症かもしれない。感染症かもしれない。どんなに考えてもレントゲンでは判明せず、胸を開けて摘出して組織診断しないと分かりません。しかし、細胞診ならまだしも、いきなり胸を開けるのは乱暴すぎます。よって、抗生剤への反応を見たり、多少の危険はありますが刺せる位置に腫瘤があればちょっと細胞採ってみてみるのも一つの手です。外科以外のやり方、治療反応を見てから外科治療を検討します。感染症、炎症なら抗生剤などの内科治療に反応するはずですし、そもそも外科適応じゃないです。それでだめならその後、外科を検討します。腫瘍の浸潤度合いを見るためにCT撮影もよいと思います。肺葉切除して病理組織診断をするという、診断を兼ねた治療を行います。
犬の原発性肺腫瘍には、人間で言うところの小細胞癌という化学療法中心の肺がんはほとんどありません。多数が非小細胞癌という外科オンリーの肺がんです。単発で孤立性の場合、外科治療が第一選択です。この場合、けっこうすこぶる予後もよいです。前述しましたが、それ以外の場合、治療が確立されていません。いろいろな治療法が検討されていますが、決定的なものがありません。とはいえ、あきらめずに生活の質の維持・向上のために尽力します。リンパ節転移のない単発・孤立性・硬化性の原発性肺腫瘍のみ外科切除によって長期予後が期待できます。
犬の膀胱腫瘍との戦い
ただの膀胱炎からの血尿と思いきや、腫瘍の可能性が…。ということはたまにあります。尿の症状にはいつだって腫瘍の可能性を頭のどこかに私は考えています。だからこそ、尿検査は当たり前として超音波(エコー)検査まで最初にしておくことをおすすめしたいです。膀胱結石も見つけられるし、膀胱壁の様子もよく分かる。そのわりに検査に時間がかからない。やるとやらないとでその後の治療見積もりが大きく変わってきます。エコーで腹部全体の精査とまでいかなくても、膀胱をちょっと診るだけでもやっておきたいです。それで大きな異常があればさらに詳しい検査を検討すればよいし、膀胱壁の軽い肥厚や結石であればそれに対応した治療をすればよいということです。「あっ膀胱炎ですね」にもう一手間加えるといろんなことが分かったりします。
では、膀胱の中に腫瘍みたいな(疑う)ものが発見されたとしたらどうするのか?当然、その細胞を採ってきて観察します。尿沈さを使うなりカテーテルで採取するなりして細胞の顔を見ます。それと同時に周辺リンパ節、全身状態等も精査します。
犬で一番多い膀胱腫瘍といえば移行上皮癌です。治療、予後に関して自分なりに重要な要素と思うのがそのできた位置です。位置によって治療、予後が全く異なってきます。膀胱の中でも、尿道と尿管が集まる、いわゆる膀胱三角(膀胱の尾側)に腫瘍ができた場合は非常に対処が難しくなります。なぜなら膀胱を温存して切除できないからです。膀胱全摘も含む侵襲度の高い治療の選択も必要となります。もしも、切除せずに腫瘍によって膀胱の入口、出口を覆われた場合、厳しい結果が待ち受けています。逆に膀胱の頭側にできた場合は、切除が比較的楽になります。
もし、外科を選択できない、したくないとしても内科的に効く可能性のある薬もでてきているのが光明です。
いずれにせよ、早期疑い、早期発見、早期治療に勝る物はありません。早期疑いがないと早期発見もないので、そういう意味でエコーが大きな役割をするかなと思うようになりました。
犬の乳腺腫瘍との戦い
飼い主様が一番発見しやすい腫瘍といっても過言でないのが乳腺腫瘍だと思います。犬の乳腺腫瘍はヒトと比べて断然発生が多いです。腫瘍であるからには良悪が存在し、この判別は触診でははっきりしません。切除して組織を見てみないことには良悪は判断できません。
一般的に犬の乳腺腫瘍はフィフティーフィフティールール(50%ー50%ルール)が存在すると言われています。わかりやすく言うと良性が50%悪性が50%というものです。ただし一次診療の現場である当院で見る限りもう少し良性が多い気がしています。当院が数mmレベルの乳腺腫瘍でも切除して組織診断しているのが関係しているかもしれません。
乳腺腫瘍で大切だなと感じているのが、小さいうちに切除するということです。1㎝以下(数mmレベルを希望)で気づいていただく、そして受診していただくことは重要だと感じます。当院において1㎝以下の病変で乳腺を全切除することはしません。異論反論はあるかもしれませんが小さい単発の乳腺腫瘍において片側乳腺全切除はおすすめもしないしやりません。単一乳腺切除以下しか行いません。その方が飼い主様の心理的負担、ワンちゃんの肉体的負担が軽いと考えるからです。実感で8割近くが良性である小さい乳腺腫瘍であるなら不必要な拡大切除は必要ないという考え方です。もし、悪性という病理組織結果が得られたなら、次のステップを考えます。ちなみに悪性だとしても、その後に遠隔転移したとか、再発という例を私はほぼ見ていません。ここまでは早期発見の犬の乳腺腫瘍の場合の話です。
ただし、かなり大きくなってからの乳腺腫瘍であるならば話は違います。現状でどれくらい腫瘍が拡がっているのか(遠隔転移の有無や周辺リンパの状態)、全身状態(基礎疾患はないか)・年齢などを慎重に判断してからの治療になります。あえて外科的侵襲の大きい根治を狙わずに緩和目的の治療をすることも多々あります。当院では緩和目的の秘策も用意してあります。
まとめると、犬の乳腺腫瘍はとにかくはやく見つけて様子を見ずに近くの病院を受診しよう。そして切除するかを決めようということです。どうしようか悩むのであれば信頼できる主治医の先生の元で切除してもらうことをおすすめします。ちなみに乳腺の腫瘍に対して内科的治療は原則無力です。抗がん剤を使っても手で触れるしこりはなくなりません。
脾臓の腫瘍との戦い
とにかく早期発見がむずかしいなぁとつくづく感じる腫瘍です。なんせ症状が初期にでない。言葉を発せられない以上、早期に外見から見つけることは不可能です。
早期発見しようと思ったらエコーで脾臓を定期的に見ていくしかないのかなと思っています。犬の脾臓をエコーで見ているとなんか小さい結節病変があるなというのはけっこうよくあります。ただこれがすべて腫瘍というわけでもなく非腫瘍性の病変ってこともあります。心配な場合は病変の細胞を針でとってみるというのがやり方です。経過観察を望まれる方もいます。どんどん大きくなっている場合は早めに脾臓を摘出するのも検討します。
早期発見を逃し、ぼこーんと脾臓に固まりができている。ワンちゃんは元気がない。貧血気味だ。となると血管肉腫という悪性腫瘍をまず疑います。なんでこんなに悪さするのかなというくらい脾臓の血管肉腫は悪い腫瘍です。周辺の組織もバンバン攻撃するし、血流にのって転移もするし、さらに貧血・血小板減少なども引き起こすし悪の限りを尽くします。その悪の権化をなんとかして退治しないと厳しい結果になってしまいます。ただ、その前に貧血や血小板減少を改善する必要もあります。なんとか悪の権化をやっつけた後も気をぬけません。散らばった癌細胞に対しても何かしないとあっというまに再発・転移します。いったいどこまで悪なんだ!!
まとめると、脾臓の病変は良性のも結構あるんだけども、常に血管肉腫の恐怖がつきまとってくる。「もし、血管肉腫だったら」を念頭にして早めに発見してアクションしていきたいなということです。