動物用血圧計(petMAP graphic Ⅱ)を当院で使用し始めてから
犬・猫の血圧を測定すること
特に、
高齢猫の血圧を測定することの重要性
を実感しています。
今回は、
なぜ私が高齢猫の血圧測定は重要だ!と考えるのか?
を書いていきたいと思います。
※なお、高齢猫とは10歳以上の猫を想定しています。
①猫の高血圧を2つのタイプに分けると…
猫の高血圧は大きく2つのタイプに分けられます。
~緊張や興奮や不安といった自律神経が関わる高血圧を除いて大きく2タイプです。それをいれて3タイプとすることが教科書的には通常ですが便宜的にここでは2タイプとしています~
ⅰ二次性高血圧
→高血圧を引き起こすなんらかの疾患があって、その疾患が原因で血圧が上がってしまうタイプ。
→高齢猫では甲状腺機能亢進症や慢性腎臓病がなんらかの疾患にあたることが多い。
ⅱ 特発性高血圧
→高血圧を引き起こすなんらかの疾患がないor見つけられないのに血圧が上がってしまうタイプ。
→かんたんに言えば原因がよくわからない(≒特定できない)高血圧
この2タイプです。
私の臨床経験からは、
二次性高血圧が多いけれど特発性高血圧もぼちぼち経験する
というような感じです。
二次性高血圧の中でも、
高齢の猫の慢性腎臓病に伴う二次性高血圧をよく経験するのですが、
実際は、
慢性腎臓病が原因で高血圧になったのか?
他の疾患による高血圧or特発性高血圧が持続した結果、慢性腎臓病になったor悪化したのか?
どっちなのかなぁということもあります。
二次性or特発性というようにはっきり白黒分けられるものではなく、両者が関係しあっているのだろうと私は思っています。
②猫の高血圧の症状は?
猫の血圧が上昇したからといって短期的にはほぼ無症状です。
血圧が高いからといって特異的な症状はありません。
しかし、
気付かれることなく高血圧がずっと持続してしまうと、様々な臓器にダメージを与えてしまうことになります。
このような、
持続的な高血圧を原因とする各種臓器へのダメージ
そして、
そのダメージからの障害のことを標的臓器障害と呼びます。
上記の標的臓器として代表的な臓器が、眼・心臓・脳・腎臓になります。
短期的にはあまり症状がない猫の高血圧を治療(降圧治療)する目的は、
標的臓器障害を防ぐこと
~orその悪化を防ぐこと~
~標的臓器障害の具体例は後述です~
になります。
③猫の血圧を定期的に測定した方がいいのか?
猫の持続的な高血圧を早期発見して標的臓器障害を防ぐためにはヤングの時からの定期的な血圧測定が欠かせない!
と思います。まさに正論です。
ただ、
私はどんな猫にもスクリーニング的に血圧測定を実施する必要はないと考えています。
~当院では診察ルーティン・ワクチンルーティン・様々な検査ルーティンとして血圧を測定していません~
なぜならば、
元気でヤングな猫の高血圧はほとんどないと思うし(あくまでも個人的見解)、測定すれば測定するほど誤診を生む可能性もあると考えるからです。
~誤診≒緊張や興奮や不安といった自律神経が関わる高血圧を本当の高血圧と考えてしまうかもしれないこと~
~後述していますが、猫の高血圧の早期発見は難しいと思います~
そもそも、
(非観血的血圧測定だとしても)
血圧を測定することは猫からしてみればかなりストレスになる行為だと思うからです。
~病院嫌いのネコちゃんになってしまう可能性もあります~
では、
どんな時に当院で血圧測定することがあるのか?
というと…
・高齢猫の定期健康診断の時
・オーナー様から測定希望があった時
・高齢猫で慢性腎臓病を罹患している時
・慢性腎臓病だけでなく高血圧を引き起こすなんらかの疾患を罹患している時
・標的臓器障害を疑う時
こんな時が主になります。
※当院でのイヌとネコの血圧測定についての記事はこちら←要クリックになります。
④猫の高血圧の早期発見は難しい
人間のようにゆっくり座って家庭でセルフ血圧測定ができるといいのですが、猫ではそうはいきません。
院内でカフを巻くだけで猫が興奮するなんてことはよくあることです。もちろんこんな時は血圧が上昇してしまいます。
~不慣れな環境に身をおくだけでも血圧が上昇してしまうことがあります~
猫に対して年齢に関わらず何度も何度も血圧測定したところでそれが普段の血圧を示しているかは分かりません。
~とはいえ、ストレスなく可能であるならば定期的に何度も血圧測定して血圧のトレンドをつかむことは有意義なことだと思います~
そんなこんななので、
血圧が持続的に高いことを早期発見して治療に入ることは理想ではあるものの、猫ではかなり困難だなぁと私は思っています。
だからこそ、
持続的な高血圧を早期発見するよりも、
標的臓器障害をできるだけ早めに発見しよう!
とも思うようになってきました。
あえて、
持続的な高血圧の早期発見にこだわるのであるなら
高齢猫に絞って定期的に血圧を測定すること
~ストレスなく血圧測定できるのであれば~
~やっぱ高齢猫の方が高血圧が多いことも高齢猫に絞る理由です~
なのかなぁと思います。あえてですが…
⑤標的臓器障害とは?
持続的な高血圧に対してダメージを受ける主要な臓器は、
眼・心臓・脳・腎臓
になります。前述の通りです。
では、具体的に
臓器が高血圧のダメージを受けるとどんなことが起きるのか?
つまり、
標的臓器障害の例(症状)を超かんたんに挙げると
・眼であれば
→目が見えなくなる、網膜の出血・剥離など
・心臓であれば
→心雑音、不整脈、左心室の形態異常など
・脳であれば、
→発作、脳梗塞、各種神経症状など
・腎臓であれば、
→腎臓病の進行、Creの上昇など
このようになります。
しかし、
どの例(症状)も高血圧だけが原因で起きるとは限りません。
いろいろ検査していくうちに「高血圧からの標的臓器障害」とわかるようになります。
このような感じなので、
標的臓器障害をできるだけ早めに発見しよう!
といっても、
獣医師ならまだしも
オーナー様にとってはその発見(気付き)は困難なことだと思います。
では、
⑤オーナー様にもわかりやすい症状はないのか?
オーナー様でも高血圧からの標的臓器障害をすぐに疑えるようなわかりやすい症状がないかなぁ?
~毎日接しているオーナー様の気付きこそが診療で一番大切だと思うのでそんなことを考えています~
と考えた時に私がパッと思いついたのは、
瞳孔がまん丸になっている!
~散瞳という状態~
という症状です。
・高齢の猫
+
・ふと顔を見るとずっと瞳孔が開いている(片眼or両眼)
~なんか目が見えてなさそう…~
↑当院での持続的高血圧のネコちゃんの眼の写真です。明らかに瞳孔が開いていておかしいなと気付くオーナー様が大変多くいらっしゃいます。
このような状況で来院していただいて、その猫の血圧を測定してみると
高血圧(収縮期圧200mmHgオーバー)
ということがよくあります。
~慢性腎臓病の猫だとなおさらです~
↑標的臓器障害を疑うネコちゃんの血圧は収縮期圧200mmHgオーバーということがほとんどです。このような時、その他必要な検査そして治療プランをオーナー様に私から提示させていただいています。
当院で猫の高血圧を診断するときの主訴はほとんどが高齢猫の眼の異常です。
私が診察で猫の高血圧(≒標的臓器障害)を疑う時も高齢猫の眼の異常であることが比較的多いです。
標的臓器障害としての眼の異常を早期発見できれば、降圧治療をすることにより散瞳を改善し視力もある程度維持できる可能性があります。
~眼の評価として少なくとも必ず眼底を私は観察していますし、そのことが予後判定にもつながります~
ちなみに、
猫の血圧を下げる薬(降圧治療薬)としては
当院では下の写真のノルバスク錠を比較的よく使用しています。
↑当院で比較的よく使用するネコの降圧治療用の薬「ノルバスク」さん。適応や用量をよく考えて処方しています。初回投与時は逆に低血圧にならないかよくオーナー様に観察していただきます。半分や1/4に割るのが難しい錠剤なので30日以内の処方であれば当院で分割して処方いたします。
こういうことから、
高齢猫(特に落ち着いて血圧測定可能な猫)では定期的に血圧を測定する方がいいかなぁと私は思っています。
慢性腎臓病の維持治療をしている猫であるならばなおさらです。
高齢猫の血圧を測定することの重要性を感じた理由はまさにこのことにあります。
⑥慢性腎臓病の猫と血圧測定(腎性高血圧)
腎臓という臓器は尿を作るだけでなく、体の体液量をうまい具合に調整することにより血圧をコントロールするという重要な役割も持っています。
慢性腎臓病の猫では腎臓の体液調整機能がうまくいかずに血圧が上昇してしまうことがよくあります。
いわゆる、
腎性高血圧
です。
腎機能が落ちる→高血圧になる→高血圧が腎臓に負担をかける→さらに腎機能が落ちる→高血圧になる……
まさしく悪循環です。
そうこうしているうちに他の臓器にも標的臓器障害がでてきてしまう…
高血圧と腎障害の関係はまだまだわからないこともいっぱいありますが、早期発見して何らかの対応を考えるのは必要だと思っています。
最後に、
高齢のネコちゃんの血圧のことが気になっているオーナー様に対しては副院長が診察いたしますので、必ず副院長指名で来院していただきますようにお願いいたします。