ネコの疥癬

 以前の記事で、

・私が関東地方から高知に戻ってきて始めてみた病気がいくつかある。

・そのうちの1つが、ネコの耳ヒゼンダニ(耳ダニ)症←要クリック

 ということを紹介しました。

では、

 同じようにネコの疥癬もそのうちの1つなのかというと、さすがに違います。

 関東時代にも何例かは(猫疥癬を)診ました。

ただ、

 高知で診療を始めてからの方がずぅぅぅ~っと多く診ています。

 そんなこんなで、今回はネコの疥癬についての個人的見解を書いていきたいと思います。

①めちゃくちゃかゆい病気!原因は?

 猫疥癬の病態はそれほど難しくなくて、

 ネコショウセンコウヒゼンダニが皮膚の浅い所に寄生してトンネル作ってひきこもる

   ↓

 ひきこもり生活の中で糞便などいろんなものをトンネル内に巻き散らかしながら成長・増殖する

   ↓

 ダニから巻き散らかされたいろんなもの(orダニそのもの)に対して猫の体の免疫反応が過剰(=アレルギー)になる

   ↓

 炎症がおこって皮膚がめっちゃかゆくなる

   ↓

 さらに、皮膚の角質が分厚くなってカサブタができてウロコみたいにボロボロになる

 ざっとこんな感じの病態です。

 寝食を忘れるほどのハードなかゆみだと思います。

②どこからこのダニはやってくるのかな?

 猫がダニに寄生される原因は疥癬の猫との接触です。
 ~生活環境中から寄生されることもあります~

なので、

 外で暮らしている猫に多い病気になります。
 ~不特定多数の猫と接触する機会が多いからです~

 当院で疥癬と診断される猫のほとんどがノラ猫や地域猫です。
 ~家猫ちゃんの疥癬は少数しか診ません~

とにかく、

 不特定多数の猫と接触することはダニに寄生されるリスクがアップします。

ちなみに、

 院内感染は絶対避けたいので、

 当院では疥癬の猫の診断・処置・治療をしたあとは診察台や床などを念入りに拭き掃除しています。

さらに、

 その雑巾を熱湯の中にしばらく沈めています。ダニとオサラバするためには熱湯がかかせません。

やかんとバケツと石

↑当院でずっと使っているやかん。熱湯といえばやかんです。雑巾の重しに沈めている石は20年以上前に川で拾ってきた石です。地味に長年にわたってこの石を大切にしています。

③人間にもうつるのかな?

(人にネコショウセンコウヒゼンダニが寄生して、そこで増殖して大変だぁということはかなり少ないのですが…)

 人間にもうつります。

 ちょっと触れた程度や猫を触った手をいつもよく洗っているという状況で人にうつることはまずないと思いますが、
 ~実際、疥癬の猫の診断・治療を相当数していても私はうつったことがありません~

 疥癬の猫と濃厚接触している場合は人間にもうつることが多いです。

濃厚接触…例えば、

 疥癬と知らずに疥癬の猫と毎日いっしょに寝ているというオーナー様は高い確率でうつっています。

 皮膚の赤いプツプツをオーナー様に見せていただいたことは何度もあります。

 めっちゃかゆいそうです。

 そのような場合、すぐに皮膚科を受診することをおすすめしています。
 ~診察の時、猫疥癬の件をドクターに申告することをアドバイスしています~

④その特徴的な見た目を覚えよう!

 猫疥癬は

 その特徴的な見た目を覚えれば絶対疑うことができる病気
 ~たとえ、プロではなく一般の方だとしても~

 です。

 実際にノラ猫や地域猫に関わっている方々は、

 「これは疥癬だと思うんだけど…」

 のような主訴でよく来院されます。

では、

 その特徴的な見た目を言葉で表現してみると、

 顔・頭・耳がカサカサしていてウロコのようにボロボロしていて白っぽくもあって…

 うぅぅ~ん、私の力では言葉で伝えきれないです。

 言葉で説明するより、写真を見ていただくほうがよっぽどいいと思います。

ということで、

 Google先生で猫疥癬を画像検索してみてください。

 特徴的な見た目を無数に閲覧できます。

 猫に関わる方であるならば疥癬の見た目を覚えておいて損はないです。

猫の疥癬の重症例

↑当院でのThis is 疥癬の例。ここまで進行するとオーナー様でもたやすくその異変に気付きます。猫の消耗度にもよりますが治療によって改善します。

ただ、

 ネット上のThis is 疥癬みたいな、教科書的な疥癬の猫は年に数例ほどしか診ません。

 ここまで疥癬がひどくなる前に治療に入りたいところです。

⑤とにかく疥癬を早期発見しよう♪

 強いかゆみというのは非常に強いストレスです。
 ~This is 疥癬の状態で猫が快適な生活をできるわけがありません~

 一刻も早くオーナー様(or猫を見守っている方)が疥癬に気付いて治療することが必要です。

では、

 猫疥癬を早期発見するためのコツを私なりに考えると…

⑥疥癬初期症状は耳から始まる!

 猫疥癬の早期発見のために注目するのは耳です。

具体的に言うと、

 耳の辺縁です。

 多くの場合、猫疥癬は耳の辺縁から病変が発現します。

例えば、

 下の写真が当院で診断した疥癬初期の猫の耳の辺縁です。

猫の疥癬の初期例

↑疥癬初期の猫の耳の写真。この病変で疥癬を疑って来院されるオーナー様の観察力はすごいなぁと思います。見た目(=身体検査)と問診は疥癬の診断にとっても重要だと思います。 

 耳の辺縁が少し脱毛して赤いかなぁ?カサカサしてるかなぁ?という感じでかゆみも強くなく経過観察でもいいような気はします。

しかし、

 もし、この猫が

・ノラ猫or地域猫の場合

・ノラ猫or地域猫を数か月以内に保護して飼い猫にしている場合

・購入or譲渡されて数か月以内の猫の場合

・最近、疥癬の猫と接触したかもしれない(ペットホテル・長い外出など)場合

 であれば、

 猫疥癬を強く疑います。
 ~同時に糸状菌感染やその他の皮膚炎も疑いますが…~

 疥癬についてある程度理解しているオーナー様であるならば、このレベルの病変でも

 「疥癬かもしれない」

 という主訴で来院されます。

 耳先が脱毛して炎症を起こして、カサブタみたいなのがあってめっちゃかゆそう!になる前に気付けるなら

ましてや、

 This is 疥癬になる前に気付けるなら

 それに越したことはありません。

私の経験上、

 顔面、眼の周りや耳以外の頭部から疥癬の病変が始まるということはほとんどありませんでした。

⑦診断はダニや卵の検出

 猫疥癬の診断はなんのひねりもなくダニor卵を病変から見つけることで可能です。

 疥癬を疑う皮膚病変を何らかの方法で削り取って顕微鏡でそれを観察してダニや卵が検出できれば診断終了です。
 ~糸状菌感染はないかな?を同時に検査することもあります~

 ちなみに、下の写真は軽い病変だった上の写真の猫から検出したダニと卵です。

ネコショウセンコウヒゼンダニ(猫疥癬)と卵

↑iphone接眼レンズベタ詰めで撮影した写真。今後この卵からネコショウセンコウヒゼンダニが次々に生まれるかと思うとゾッとします。卵を考慮して複数回の治療はどうしても必要だと思います。ダニを根絶やしにするためには。

 診断自体は特にひねりもなく比較的簡単だと思います。

 そういう意味で、個人的見解ですが

 検査云々よりも、見た目から疥癬を疑うところまでが診断の8割程度占めてるのかなぁと思います。

⑧治療方法はシンプル

 猫疥癬に対してはイベルメクチンという特効薬があります。

 切れ味抜群で効果のあるお薬なので単回投与でも2週間後には目に見えてよくなります。

治療反応をみると、

 1回のイベルメクチン投与だけでも大丈夫そう♪治っちゃった♪ような気はしますが、当院では2~3週間間隔で複数回イベルメクチン投与をしています。

なせならば、

 ダニの生活環を考慮するからです。

具体的に言うと、

 ダニが卵から成虫になるまで(≒生活環)は2週間程度かかります。

 原則卵にはイベルメクチンなどの薬剤が効かないので、その卵から成虫になる2週間後以降に再度薬剤でダニをノックアウトする必要があるからです。
 ~そんなこんななので、良くなったからといってオーナー様判断で治療を中断しないほうがよいとは思います~

 猫疥癬はThis is 疥癬の末期でもなければ予後良好な病気です。

 完治も可能な病気です。

なお、

 放置して自然治癒はありません。もちろん自然治癒を経験したこともありません。

⑨猫疥癬とレボリューション

 あくまで、当院での場合になりますが、

 猫疥癬の治療にレボリューション(薬剤名:セラメクチン)をファーストチョイスとして原則使用していません。

なぜならば、

 治療効果としての切れ味がイベルメクチンに比べてちょっとよくないかなぁという使用感を私個人的に持っているからです。
 ~獣医学的エビデンスがどうこうよりもただの私見です~

 猫疥癬の治療薬としてアリだとは思いますが、積極的に当院では使用していません。
 ~場合によりけりでレボリューションを選択することもあります~

ちなみに、

 レボリューションもイベルメクチンも猫疥癬に対しては獣医師の裁量権による効能外使用になります。
 ~猫フィラリア症を全く考慮しなくていい薬剤ではありません~

補足ですが、

 フロントラインは猫疥癬に対して効果ありません。

⑩今回のまとめ

 猫疥癬は、早期発見すれば根治できる病気なので

とにかくオーナー様には、

 今回の記事で紹介した「疥癬かもしれない!」という所見も参考にしていただいた上で、できればThis is 疥癬になる前にそれを疑ってもらいたいと思います。

そして、その時には

 どこの動物病院でもいいので受診して獣医師の診察を受けていただきたいと思います。

猫の情報
2023年09月08日