当院での肺エコー検査についてはこちら←要クリックになります。2022年8月3日にこのページの下に加筆しました。ぜひ、ご覧ください。
当院での犬の僧帽弁閉鎖不全症(ステージB)の診断と治療についての記事はこちら←要クリックになります。2022年12月12日の記事になります。心エコーのことも触れています。
私は循環器の専門医でもなければ認定医でもないので、循環器診療にとくに詳しくはないということを最初にことわったうえで、当院で行っている犬の心臓エコーについてご紹介いたします。一般内科診療レベルでのお話です。
当院で心臓の検査をする場合、ほとんどが通常診察時の聴診で心雑音がする、もしくは「最近、変な咳みたいのをする」という主訴からの検査が多くなっています。
心臓の検査の場合、動物の状態にもよりますが、ワンちゃんをお預かりして検査します。心臓の検査には、身体検査・心電図・レントゲン・血液検査・エコーなどがあります。
どれが大切な検査というわけでもなく、すべての所見を総合して診断します。
今回は、心臓検査の1検査として心臓エコー検査のかんたんな紹介です。
心臓エコーは、全身麻酔も必要なく、放射線被ばくの心配もなく、それでいてリアルタイムに心臓の様子を観察できるとても有用な検査だと思います。
心臓のどこが(なにが)悪いのか?心臓病の進行度はどれくらいなのか?を評価するための一つの手段として、私は心臓エコー検査をしています。
文字ばかりでは、読む気もなくなると思うので、エコー画像とかんたんな説明で簡潔に説明します。私の個人的なエコーの見方です。すべて当院で検査したワンちゃんの画像です。
当院では可能な限り全症例で、心電図を見ながらエコー検査をしています。
まず、かんたんに左右の4つの心臓のお部屋の大きさのパット見バランスをみます。最初は主観的な評価を私はします。
↑実際の僧帽弁の形態をみてみます。上の写真は、弁が厚くなってきれいに弁が閉じられていません。要するに僧帽弁閉鎖不全です。
心臓の各お部屋の大きさを測ったり、比べたりします。
↑大動脈の大きさと左心房の大きさを比べます。小さな1と書かれてるのが大動脈です。なるべく客観的な評価を試みます。主観から客観へと見方を変えていきます。
各お部屋や大動脈、肺動脈に対して、血流に色をつけるカラードップラーをかけてみます。正常な心臓では青と赤の世界なのですが、逆流や乱流があるとレインボーみたいなモザイクに見えたりします。
↑あまりいい画像ではないですが、右下に向けてレインボーなモザイクが見えます。これが左室から左房への逆流を示しています。
本来はない逆流を見つけると、それがどれくらいのスピードかな?と思って速度も測ってみます。
↑剣のように基線から下向きにシャァーとなって白く見えるのが心臓収縮時の逆流速度の計時変化で最高速度などを見てみます。この剣の形もいろいろ意味があります。
心臓が弛緩したときの左房から左室への流入速度も見てみます。
↑あまりいい画像ではないですが、上向きにシャーっとなっている二つのお山の速度も見たりします。e波、a波というものですが詳しい説明は割愛します。左房の中の圧力がどんな具合かな?という指標になったりします。
その他いろいろ計測に凝りだすとマニアックになってくるので、私はここで紹介したものとその他いくつかしか計測系、測定系統はしていません。
2年前くらいから心臓エコーと同時に肺のエコーも始めるようにしました。いい画像を保存してなかったので画像は割愛しますが、肺水腫の検出率がかなりあがっています。
状態の悪い症例ではレントゲン撮影がおそろしいので、エコーをあてるだけで肺の状態が分かる肺エコーはすごく助かります。
私は左利きなので左手でエコープローブをもって操作して、同時にエコーのマシンのタッチパネルやらトラックボールなどを右手で即効チャカチャカ・コロコロします。結構頭を使います。検査全体をスピーディーに終わるための同時チャカコロ処理になります。
そんなこんなで、心臓エコー(場合によっては肺エコー)検査から、心臓の悪いところを発見し、進行度を評価しています。もちろんその他の検査結果もすべて見てからの最終診断につなげてます。
もし、当院で心臓の検査を検討される場合は、お気軽に獣医師・看護師に気軽に声をかけてください。心臓病の症状が出る前に、早期発見、早期アクションをとることが非常に重要だと思います。
ここからは2022年8月3日に加筆
イヌの肺エコー検査
上の過去記事でチラッと触れていますが当院では現在、心臓エコー検査に加えて肺エコー検査も実施しています。
ということで今回は、
私が思う犬の肺エコーの10のコト
①犬の肺エコーをはじめたきっかけは?
私が獣医師になってから10年くらい、私は肺エコーを全然していませんでした。
していないというより、できませんでした。
肺にエコーをあてて何がわかるのかもわからなかったし、そもそもザーってなってるだけの画像の見方もわからない。
という状態でした。
そんななか
3~4年前に肺エコーのセミナーに参加しました。
このセミナーがきっかけになります。
セミナーでは、特徴的な所見や診断へのアプローチをかんたんに学習させていただき、
そのことを当院で実践してみると
けっこう診断価値の高い検査だなと思いました。
その後、
自分でいろいろ勉強して試行錯誤しながら
現在も肺エコーを続けています。
②心原生肺水腫を早期発見できる!
犬の心臓病、とくに僧帽弁閉鎖不全症を評価するうえで
肺水腫があるか?ないか?
は結構重要だと思います。
肺水腫の有無は胸部レントゲン撮影でも判断できますが、
早期発見を考えると
だんぜん肺エコーの方が検出感度が高いと思います。
私が勝手に思っているわけではなく、
心原生肺水腫の検出感度についての報告もちゃんとあります。
肺エコーは心原生肺水腫に対して非常に検出感度の高い検査になります。
③呼吸困難時に犬への負荷が少ない検査
呼吸状態がかなり悪くなってワンちゃんが来院した場合、なかなか思うようにいろいろな検査をできません。
なぜならば、
検査に伴う保定の負荷、体位変換の負荷を考慮するからです。
心原生肺水腫を疑うので必要最低限の検査をしたい!
~ワンちゃんに検査負荷がかからないように~
このような時でも肺エコーであるなら、
最低限の保定、しかもありのままの楽な体位で検査を実施できます。
~酸素マスクなどで酸素化をしながら~
少なくとも
レントゲン撮影をするよりは犬への負荷が少ない
と思います。
④リアルタイムですぐに状態を把握できる
肺エコーに限らずエコー検査全般に言えるのですが、
リアルタイムで見たいものが見える!
というのが肺エコーのいいところだと思います。
見たいものが見えるということは、見たいものを事前にはっきりさせておく必要があります。
⑤見たいものは肺全体
肺エコーを私が始めた初期の頃は、
けっこう適当に肺にエコープローブをあてていたのですが、
それではダメだ!と思い、今では
左右の肺について、後葉から順番に前葉まで観察していく
ようにしています。
⑥犬の場合は右後葉に注目
心原生肺水腫の評価のために私は肺エコー検査をすることが多いと思います。
それだけに犬の心原生肺水腫の特徴を念頭に検査を実施するようにしています。
ワンちゃんでは肺水腫が肺の後葉とくに右後葉から発生することが多いので
~経験的にも教科書的にも右後葉かなと思います~
右後葉領域に注目して肺エコー検査をしています。
⑦けっこういろいろとわかる
肺エコー検査は、肺水腫だけでなく、肺炎や気胸などもある程度疑うことができます。
~肺炎についてはエコー検査に加えてCRPの値も参考にするといいと思ってます~
もちろん腫瘍性疾患についても診断価値があると思います。
胸腔内腫瘍のエコーガイド下FNAという使い方もできます。
⑧とりあえず普通の肺はエコーではどんなに見えるのか?
↑普通の肺部分にエコーをあてた当院での画像。横方向の高エコーラインが減衰していきます。肺に空気がちゃんと入っている像になります。
⑨心原生肺水腫だとこんなにみえる
↑心原生肺水腫の時によくあらわれる当院での画像。詳しい画像所見は割愛しますが、雲の切れ間から光が差し込むような感じです。肺胞やその間に水かたまることでできる像なので必ずしも心原生肺水腫とは限りません。とはいえ、よく見るのは心原生肺水腫の時です。その他の検査所見も総合して診断します。
➉とにかく続けていたら肺エコーがわかってきた気がする
緊急である呼吸困難を伴う場面
だけでなく
心雑音からの心臓検査
という安定した状態で検査可能な場面でも私は必ず肺エコーをするようにしています。
レントゲンや心電図、心臓エコーその他検査所見とあわせて肺エコーで見えたものとの関連を自分なりに考えるようにしています。
そんなこんなを続けていたら
なんとなく肺エコーがわかってきたような気がしてきました。
「勝手に自分で分かったような気がしてるだけ」と指摘されても仕方ないですが…
心臓エコー検査にしても肺エコー検査にしても、
すこしでも多くのことが迅速に無駄なくわかるように、できる範囲で胸部エコーを引き続き勉強・研鑽していこうと思います。