猫の子宮蓄膿症の追加記事は下にあります。
こちら←要クリックからご覧ください。2023年4月19日に加筆の最新記事です。
本日2022年2月22日はねこの日ということです。しかも今年は2が6つも並ぶ貴重なねこの日のようです。
ということで、
今日はネコちゃんの子宮蓄膿症について当院での対応や私見をかんたんに紹介いたします。かんたんに!という割に今回も長文になります。
子宮蓄膿症とは、かんたんにいうと子宮がバイキンにやられて炎症を起こし、子宮に膿がたまる病気です。
犬の子宮蓄膿症は比較的発症率が高めの疾患ですが、ネコちゃんの子宮蓄膿症はそれほど多く診ないかなぁという感じがします。
犬は自然排卵動物で、猫は交尾排卵動物であるという違いが子宮蓄膿症の発症率に影響しています。
子宮蓄膿症の発症には、排卵後に分泌量が増加するプロジェステロンというホルモンが大きく関与しているのですが、
猫は交尾刺激がないと排卵しないので、犬ほどプロジェステロンに子宮が刺激されない。
犬は年に数回の自然排卵後、妊娠してもしなくても長期にプロジェステロンが分泌される。よって、犬はブロジェステロンに子宮を刺激される頻度・時間が生涯で猫より高く・長い。
そんなこんなでかんたんに言うとこんな感じです。
→猫は犬ほど子宮蓄膿症になりにくい
猫の子宮蓄膿症は早期発見しにくいなぁという印象
犬の子宮蓄膿症だと多飲多尿という症状がよくあるのですが、ネコちゃんではあまり多くみられません。
私の経験上の話ですが、多飲多尿という主訴でネコちゃんの子宮蓄膿症を診断することはほとんどありませんでした。
ほとんどの主訴が「ネコちゃんのお腹がなんかすごい張ってる。なんとなく元気ない。食べが悪い。」というもので、
身体検査で陰部を診てみるとすこし膿のようなものがあったりなかったり…
いろいろ検査してみると
子宮蓄膿症だったという例が多いように思います。
避妊(不妊)手術を主訴に来院されて、偶然診断される例も当院では多いかなと思います。この場合、ネコちゃんには何も臨床症状がない場合が多数です。
避妊(不妊)手術の例からも分かるように、早期ではネコちゃんの様子が普段とほとんど変わらないので、オーナー様が猫の子宮蓄膿症を早期に発見することは困難かなぁと思います。
次に猫の子宮蓄膿症の治療ですが
~大前提として、治療せずに放置して治癒することはめったにないと思います~
当院ではほぼ外科手術=子宮卵巣摘出術による治療になります。
犬と違って猫の子宮蓄膿症の治療で、内科的治療で子宮から排膿させることは特段の事情がない限り、私は強く推奨していません。
もちろん、ネコちゃんの年齢・既往歴・全身状態を考慮して、術前に様々なリスク評価、合併症の確認をしたうえでの外科手術になります。術前の状態によっては全身状態の改善をまず実施します。
腹膜炎を併発しているなど、あまりに全身状態が悪い場合は他院を紹介することもあります。
猫の子宮蓄膿症の手術を執刀する際には、パンパンに張っている子宮を破裂させないようにかなり気を付けています。膿が溜まってパンパンにテンションのかかった子宮は、ちょっとした刺激で裂けることもあるので、かなり慎重にならざるをえません。
↑当院で先日摘出した子宮蓄膿症のネコちゃんの子宮の一部。左の子宮角にのみ蓄膿しており右の子宮角はすこし腫れているだけで蓄膿はしていませんでした。左右大きさを比べるといかに膿が溜まっているかわかります。けっこう消化管の圧迫もあったのですが、このネコちゃんに目立った臨床症状はありませんでした。
万一、術中に子宮が裂けた時の準備もしておきます。
↑膿をシリンジで吸いだしてみるとこんな色の膿が溜まっていました。もしも気付かずに破裂したら厳しい状況になることが予想されます。術中は、この膿をとにかく腹腔内に散布させないように最大限努力します。
あえて内科的治療での排膿からの治癒を目指そうとすれば、
抗生剤を当然投与しながら、
製品名アリジン(Alizin)という海外薬による治療があるのですが、過去猫に使用して「うまく全部排膿できた!アリジンでほんとによかった!めっちゃいいやん!」という成功体験が私にはありません。あくまで「私には」ですが。それなりに改善するといった印象です。
治療選択肢として提示しようとは思いますが、基本的に「猫にアリジン」はこれからもオーナー様に強く推奨はしないと思います。あくまで治療選択肢の一つです。
↑当院ではアリジンを常備しています。アリジンは日本未承認動物薬でしかも子宮蓄膿症に対しての使用は効能外使用になります。そのことをいちおう説明してからの使用がよいのかな?と私は思っています。犬の子宮蓄膿症内科治療では当院でよく使用するお薬なのですが、猫では積極的には使ってないのが現状です。
猫の子宮蓄膿症は大きな合併症もなく、外科的にきれいに子宮卵巣を摘出すれば予後は良好になります。
ただ、外科手術には術前・術中・術後にリスクが確実に存在するので「外科で確実に治ります!外科最高!!」というわけではありません。
内科・外科。どちらの治療法もメリットデメリットがありますので時間が許す範囲で丁寧に説明していきたいなと思っています。
ここからは2023年4月19日に加筆
今回はネコの子宮蓄膿症について最近思ったことを書いてみます。
アカデミックな内容に乏しいただの感想文になっています。
①猫の隠れ子宮蓄膿症
当院では日々猫の避妊手術をしています。
その大多数は臨床上何の問題もない猫への避妊手術です。
しかし、少数ながら
臨床上何の問題もないように見えるのに、実は子宮蓄膿症を発症している猫が存在するので、
~このような子宮蓄膿症を隠れ子宮蓄膿症と私が勝手に呼んでいます~
普通の避妊手術ではなく、子宮蓄膿症治療としての子宮卵巣摘出術になることがあります。
~「普通の避妊手術」と「治療としての子宮卵巣摘出術」では、手術時間も労力も術前・中・後の管理もかなり違います~
この隠れ子宮蓄膿症のケースとして、
たとえば、
通常の術前検査で発見するということもあるし、
ノラ猫ちゃんや地域猫ちゃんの場合、
開腹したら子宮に大量に膿がたまってパンパンだった
~当院におけるノラ猫や地域猫の避妊・去勢手術の場合、猫が捕獲機に入った状態で来院するケースが非常に多くあります~
~なので、様々な事情で詳しい術前検査をできてなくて、開腹して子宮蓄膿と判明ということがあります~
ということで発見することもあります。
②とにかく症状がでない!分からない!ことが多い気がする…
改めて思うのが、
猫の子宮蓄膿症はなかなか臨床症状がでないなぁ
ということです。
膿が子宮にこんなにたまっているのになんで臨床症状がでないんだろう?
~血液検査をすればばっちり数値に反映されているのですが…~
とよく思います。
陰部から排膿(開放性子宮蓄膿症)があればまだわかる(早期発見できる)かなぁと思うのですが、
~お腹がかなり張っているというサインも発見につながるかなぁと思います~
排膿が全くなくて(閉鎖性子宮蓄膿症)お腹の張りも目立たず、元気食欲問題なければオーナー様はこの病気にすぐに気付けないと思います。
だからこそ、
避妊手術のために来院したら子宮蓄膿症だった!
ということが起きてしまいます。
隠れ子宮蓄膿症という病態が起こる主な原因はこの症状のでにくさにあると思います。
③隠れ子宮蓄膿症が当院で増加傾向にある!
偶然なのか、それとも理由があるのかは不明ですが、
~その理由をいろいろ考察してみてはいます。まだ、結論はなにもでませんが~
~たとえば、春は妊娠の猫が多い季節ですが、今年は交尾後妊娠できなかった猫が多いのかなぁと考えてみたり、自然排卵の猫が増えてんのかなぁと考えてみたり…~
隠れた形で発見される猫の子宮蓄膿症を今春だけで5例ほど経験したので驚いています。
内3例では、排膿が全くない閉鎖性子宮蓄膿症で臨床症状がなく元気いっぱいの猫でした。
~なお、実は何らかの臨床症状がでていてもオーナー様が気付いていないだけということも考えられます~
~ちなみに、残りの例ではよく見たら陰部からの排膿は確認できました。それでも全身状態は良好でした~
↑先日の生後半年以内の子宮蓄膿症例の子宮。口径はそれほど大きくなくてもパンパンに張っています。お団子状に蓄膿するのが猫の子宮蓄膿症の特徴かなと思います。このサイズではお腹の張りも分からないと思います。
犬と比べて発症率が低い
というのが猫の子宮蓄膿症の特徴であり、例年はここまでの例数を経験しませんでした。
しかも、増加傾向にあるだけでなくて
④すべての症例で2歳齢以下で発症している!
猫の子宮蓄膿症は5歳齢以降での発症が多い
と教科書によく書かれているし、「まあ、そうだな」と思っていたんですが、
今年の5例すべてが2歳齢以下での発症でした。
さらに、
そのうち2例は生後半年齢以内のノラ猫ちゃんでの発症でした。
その猫のお世話をしている方達に聞いてみると、
「普段と全然変わった様子がなかった」
とのことで、子宮蓄膿症という事実に大変驚かれていました。
私も同じように驚くとともに、
かなり若齢の猫にも起こりうる病気なんだな!
と子宮蓄膿症に対する知識をアップデートしました。
⑤治療は外科手術
当院では、隠れ子宮蓄膿症の猫は原則全例、子宮卵巣摘出術を実施しています。
そして、
全例何事もなかったかのようにその後も元気に生活しています。
臨床症状がなく元気な猫の隠れ子宮蓄膿症に限っては速やかな外科手術が効果的だと私は思います。
結果論にはなりますが、
避妊手術をしようとした時、たまたま子宮蓄膿が見つかることで全身状態が悪くなる前に子宮卵巣摘出できてよかったなぁ。避妊手術をしようとしてよかったなぁ。
と思います。
なぜならば、
このまま発見の機会もなく誰にも知られずに放置されたら、子宮破裂もありうるし、全身状態の急速な悪化も考えられるからです。
今回は、若い猫で問題なく元気にしているようにみえても子宮に膿がたまっていることがあることの紹介でした。
同じ病気でも、犬と猫ではまったく別物
と言っても過言ではないなぁと思います。