イヌの子宮蓄膿症

 今月(8月)はワンちゃんの子宮蓄膿症を診断することがなぜだか増えているように感じます。

 犬の子宮蓄膿症がどんな病気でどんな治療法があるのか等をこの記事で一つ一つ説明を始めるとめちゃくちゃ長文になるしありきたりなので、詳しいことはGoogle先生にお任せして割愛します。

今回は犬の子宮蓄膿症についての個人的見解をまとめます。

ということで、

当サイト恒例!

私が思う犬の子宮蓄膿症の10のコト

①内分泌疾患の側面もある

 子宮の病気なので生殖器疾患であるのは間違いないと思いますが、その発症にはプロジェステロンが深く関与しているのでどちらかというと内分泌疾患でもある気がします。

犬では排卵後、妊娠しようがしまいがプロジェステロンが長く分泌される

 このような犬の生理的特徴こそが元をたどれば子宮蓄膿症の原因だと思います。

 発情のたびにプロジェステロンによって子宮内膜を繰り返し刺激→内膜増殖からの嚢胞状構造になる→そこへどっかからやって来た大腸菌が感染→子宮蓄膿症

このような病態なので

②中年以降の発症が多い

 ヤングドックでの発症を私はほとんどみたことありません。

ただしZEROではありません。1歳代での犬の子宮蓄膿症を診断した経験はあります。

プロジェステロンによる繰り返し刺激が病気の引き金

という病態からわかるように

中年(8~9歳)以降での発症が非常に多いと思います。

そして

③発情出血後2ヵ月以内の発症が多い

 排卵後、プロジェステロンが分泌されている期間に子宮蓄膿症を発症しやすくなります。

発症しやすい時期を知ることで早期発見にもつながります。

発情出血が始まった日は毎回記録するとよいと思います。

④とにかく早期発見!~初期症状やサインは?~

 子宮蓄膿症でしか認められない初期症状やサインはあまりない。…と思います。

どれも非特異的な症状になります。

つまり、いろいろな病気が考えられる症状です。

ただし、

 発情出血後2ヵ月以内にこんな症状があったら要注意です。

・陰部から膿のようなものがでている

・やたら水飲んで排尿する(多飲多尿)

・なんかお腹が張ってみえる

・なんか元気ない、食欲がない

・目が充血している

いろいろな病気が考えられる症状ではあるのですが、

発情出血後2ヵ月以内という条件をいれると子宮蓄膿症を強く疑います。

⑤診断は簡単

 超音波診断装置(エコー)を使えば子宮蓄膿症の診断はかんたんです。

臨床症状とあわせてすぐに診断できます。

犬の子宮蓄膿症のエコー

↑子宮に膿が溜まっているのをエコーで確認。子宮蓄膿という病気についてはエコーはレントゲンより精度が高いと思います。子宮内膜の状態もある程度わかります。

⑥全身状態の評価が非常に重要

 犬の子宮蓄膿症の場合、蓄膿することがどれほど全身に悪い影響を与えているのかを評価することが必要だと私は思っています。

 診断自体はかんたんなのですが、診断だけで終わらせずその裏でおきていることを考えることのほうがよっぽど重要です。

・他の疾患を併発していないか?基礎疾患はないか?
 ~甲状腺機能低下症のチェックは欠かせません~

・全身に炎症が波及していないか?

・腎機能は大丈夫か?

・血液凝固系は?

 こんな感じで私が診察を担当するならばけっこういろいろ考えます。

 腫瘍診療を勉強したためか、常に局所から全身の評価が私には癖づいています。

⑦診断後に犬の子宮蓄膿症を放置したらどうなるの?

 診断後に「様子をみましょう」は危険すぎます。

様子をみてなんとかなる病気ではありません。

待てば待つほど状況は悪くなります。

診断から治療へとすみやかに移行する必要があります。

 アリジンという武器が登場した今、手術しない!はありえても治療しないという選択はやめたほうがよいと思います。

ここからは治療の話です!

 治療法は外科もしくは内科治療。どちらも一長一短があると思います。

どちらの治療をしたとしてもきちんと治療すれば予後は良好です。
~治療前後に合併症がなければ…~

⑧個人的には外科適応であれば外科治療がよいと私は思う

 蓄膿した子宮を卵巣といっしょに摘出するというのが外科治療の要点

卵巣と子宮を摘出することで再発のリスクがなくなること

手術一回で根治を狙えること

外科のメリットだと思います。

とはいえ、

外科をためらうケースもけっこう多くて、

たとえば

犬の年齢、全身状態、既往症・合併症の有無

膿で子宮がパンパンになっている場合、子宮破裂が想定される場合

 こんな時はすぐに外科治療とはならずに内科治療から始めることもあります。

内科治療であれば…

 子宮蓄膿症(犬)の内科治療といえばアリジンというくらいアリジンはポピュラーな薬になったのは間違いない!

Alizin=アリジン

↑子宮蓄膿症(犬)の内科治療を大きく変えたアリジンさん。内科治療にプロスタグランジン製剤を使用していた私の新人時代には考えられないほどきつい副作用はありません。昔、プロスタグランジン製剤で治療したワンちゃんが超神水を口にしたヤジロベーみたいに苦しんでいた姿が今でも忘れられません。

⑨Alizin=アリジンによる内科治療はたしかによいのだが…

 プロジェステロン受容体拮抗薬であるアグレプリストン(商品名:Alizin=アリジン)を投薬することにより子宮から排膿を促す

この内科治療は、

副作用が少なく、奏効率もけっこう高い

全身状態が悪くても使用可能

外科に抵抗のあるオーナー様にも受けいられやすくて

抗生剤を併用することにより治癒を目指せるということで

内科治療の要として当院でもよく使用しています。

 メリットだらけの出木杉君みたいなアリジンですが、長年よく使用しているからこそ、アリジンのデメリットも見えてきました。

デメリット① とにかく再発が少なくない

 アリジンで治療して快方するんだけども次の発情周期でまた発症というワンちゃんが少なくありません。

発情周期の度に予防的抗生剤を飲んでいただいているワンちゃんもいます。

デメリット② とにかくお値段が高い

 小型犬ならまだしも大型犬だとトゥー エクスペンシブです。

お薬自体の価格が比較的高いために、治療費も高くなってしまいます。

 何度もアリジンで内科治療する可能性を考えると、外科適応なら外科治療をしたほうが結果的に治療コストが下がると思います。

デメリット③ 日本未承認の薬~厳密にデメリットかは分からないが…~

 ちなみにアリジンは日本未承認の薬で海外薬です。海外から輸入をして薬剤を使用しています。

 もともと犬の堕胎薬であり子宮蓄膿症のための薬ではありません。

 日本未承認の薬で適応外使用なのですが、現在の獣医療でひろく使われて結果を出しているので当院でも獣医師の裁量権で使用しているというのが現状です。

 日本から動物用薬としてアリジンが上市されれば治療費の問題は解決されるかもしれません。

⑩ブレンダを併用してみる試みも!
~子宮蓄膿症の内科治療オプションとして~

ブレンダ

↑フザプラジブナトリウムは日本で開発された動物薬なので個人的に応援しています。日本開発の動物薬なんて私の知る限りはほぼないと思います。炎症性疾患への様々な応用が期待されています。

 当院では炎症反応をすこしでも速く抑えるために従来のお薬に加えてフザプラジブナトリウム(商品名ブレンダ)を抗炎症剤として使用することもあります。
~ブレンダは犬の膵炎治療薬なので犬の子宮蓄膿症に対しては適応外使用になります~

 ブレンダを使用することによる劇的な効果は感じないのですが、

膵炎におけるブレンダの使用と同じく、

回復までの日数が短縮されることは感じます。

 子宮に膿がたまること(細菌感染)が引き金となって全身性炎症反応症候群(SIRS)にまで病態が進行してしまうと今後の見通しが非常に悪くなってしまうので、

SIRSへの進行を妨げる治療

という点でもブレンダの投薬意義はあるだろうと思います。

 犬の子宮蓄膿症治療にブレンダがどうしても必要とは全く思わないですが、治療選択肢のうちの一つ、ワンモア!として考えてもよいかなと思います。


 私が獣医師になったばっかりの時と現在を比べて犬の子宮蓄膿症への対応で大きく変わったことは

アリジンの登場

に尽きると思います。

 私の新人時代は犬の子宮蓄膿といえばほぼ手術一択でした。

 内科治療にプロスタグランジン製剤を使用するという選択もあったのですが、副作用がきつくてあまり使用されることはなかったと思います。

それが今では

 アリジンの登場により内科治療も立派な選択肢の一つになりました。

 当院は現状として外科にあまり積極的な病院ではないというのもあり、犬の子宮蓄膿症の治療はほとんどアリジンでおこなっています。
~外科の場合は他院を紹介させていただくこともあります~

 私個人の思いとしては、外科とアリジンを治療選択肢として平等に扱ってオーナー様に提示できる病院にしていきたいな!と考えています。

2022年08月29日