今年も当院では様々な猫の血圧を測定しました。
「様々な猫」をもう少し具体的に説明すると、
・健康な猫(老若男女問わず)
・慢性腎臓病など何らかの疾患を持つ猫
・標的臓器障害を疑う猫
などです。
今回は、日々の血圧測定を通して2023年に私が感じたことや考えたことを書いてみます。
~過去にイヌとネコの血圧測定という記事も書きましたが、その記事よりも猫に特化した血圧測定についての記事になります~
いわば、
猫の血圧測定~2023年振り返り~になります。
なお、猫の高血圧についての過去記事も下のボタンクリックからご覧ください。
①そもそも、猫の血圧測定は正確にできるのか?
「(院内で測定する)猫の血圧なんて当(あて)になるんかいな?正確なの?」
というように、
猫の血圧測定の信頼度に疑問を持つオーナー様もいらっしゃるとは思います。
では、
信頼度はどれほどのものなのかというと…
実際、信頼度が必ずしも高いとはいえません!
~特にオシロメトリック法の動物用血圧計で測定する場合は~
~リラックスできない院内という環境で測定する限り、平常時の血圧がばっちりわかることはないと思います~
当院ではオシロメトリック法の動物用血圧計ペットマップ グラフィックⅡを使用して測定しています。
この血圧計において、
覚醒下で測定した血圧値が真の血圧値を示しているかといえば必ずしも示していません。
~血圧測定アルゴリズムが各血圧計ごとに違うので使う血圧計によって値に差がでます~
~おそらくペットマップでは血圧が高めに表示されます~
~オシロメトリック法を用いたヒト用血圧計ほど信頼性が担保されていません~
かといって、
まったく見当違いの値がでているかというとそうではありません。
~ペットマップ グラフィックⅡでは、真の血圧値ではないものの、高血圧かどうかのの判断をできる血圧値を出しています。なお、その点は後述しています~
正確な血圧値を知ろうと思えば、マノメーターチップカテーテルを使用して測定することがいいのかなぁと思います。
しかし、
現実問題としてそのようなシステム一式に投資することもできませんし、それは気軽に測定できるものではありません。
なので、
(血圧値の曖昧さを理解している前提で)
比較的簡便に血圧の傾向を知ることができるペットマップ グラフィックⅡを当院では使用しています。
仮に、真の血圧を示した正確な値ではないとしても当院で測定した様々な猫の血圧値の傾向から、高血圧を診断しています。
~ペットマップ グラフィックⅡで測定した時の血圧値と臨床症状との照らし合わせを数多くすることによって自分なりの高血圧の基準値を設定しています~
~院内という特殊環境で測定していることも加味して高血圧の基準値を設定しています~
②再現性の高い血圧測定
過去血圧値・他の猫との血圧値を比較するにあたり、測定方法や条件の再現性に当院ではこだわるようにしています。
診察台、診察台の高さ、測定者・測定時の保定者を一定にするだけでなく、
保定体位、カフの位置、カフのサイズ、カフの巻き具合、カフを巻く人、ペットマップ グラフィックⅡの測定モードなどをできる限り一定にして再現性を高めるようにしています。
↑猫の血圧は原則前肢で当院では測定しています。複数回の測定で血圧値を確定させています。血圧測定の時暴れる猫がいないことはないですが、総じておとなしく寝てくれます。
こうすることで、
血圧の高い低いを判断するに値する血圧値を得られるようにしています。
③慢性腎臓病と高血圧
過去記事←要クリックに書きましたが、
猫の高血圧の大部分は二次性高血圧です。
そして、
その原因となるものの代表が慢性腎臓病です。
たしかに、
慢性腎臓病の猫の血圧を当院で測定してみると高血圧であることが多いです。
高血圧の基準値をどこで設定するかにもよりますが2~3割の(慢性腎臓病の)猫は高血圧も併発している印象です。
④悪循環を断ち切れ!
腎臓が悪くなると、
・Naの腎排泄がうまくいかなくなって結果として体液量が増加したり
・レニンアンギオテンシンアルドステロン系が活性化してNaを貯留するようになったり
・糸球体濾過量が少なくなったり
などすることで血圧が上昇します。
~実際は数えきれないくらいいろいろな血圧上昇因子が存在します~
血圧が高くなると、
・腎臓の糸球体の圧力が上昇したり
・腎臓の血管がダメージを受けたり
などすることで腎臓が悪くなります。
そんなこんなを繰り返していると、
腎臓悪くなる→血圧上がる→さらに腎臓悪くなる→血圧が上がる→…
というように悪循環を形成します。
超かんたんに言うと、
血圧が高いと腎臓によくないし、腎臓がよくないと血圧が高くなります。
だからこそ、
私はこの悪循環を意識した診療が重要だと思うようになってきました。
なので、
私が主治医として、猫の慢性腎臓病の診療をする場合は必ず定期的に血圧を測定しています。
では、
なぜ定期的に血圧を測定するのかというと、
慢性腎臓病の猫は健常猫より高血圧になりやすいという報告もあるので、仮に今血圧が高くなくてもいつかどこかで高くなるかもしれないと考えるからです。
血圧が高い(or高くなろうとしている)のであれば降圧治療を加えることもオーナー様に提案します。
~なぜならば血圧が高いと腎臓にダメージを与えるからです~
血圧を意識した慢性腎臓病治療は、2024年も継続していきたいと思います。
⑤血圧測定なしで造血製剤を投与するのは怖い!
猫の高血圧の大部分は二次性高血圧
そして、
その原因の代表が慢性腎臓病
ということは前述しています。
では、
薬物による猫の二次性高血圧の原因は?と言えば、
その代表薬物はエリスロポエチン製剤(≒造血製剤)になります。
猫の腎性貧血の時に投与することもある薬剤です。
ちなみに、
猫の腎性貧血やエリスロポエチン製剤については下のボタンからご覧ください。
エリスロポエチン製剤であるエスポーさんにしてもネスプさんにしてもエポベットさんにしても二次性高血圧の原因になりうる薬剤です。
だからこそ、
高血圧の慢性腎臓病+腎性貧血の猫にエポベットなどのエリスロポエチン製剤を投与することで血圧がさらに上昇してしまうと…
・ある日突然目が真っ赤、眼底をのぞくと出血している
・ある日突然失明してしまう
↑猫の高血圧の標的臓器障害は目に顕著にあらわれます。高齢猫において、「なんか瞳孔開いてるなぁ」「なんか目が見えてなさそうだなぁ」という時は高血圧も疑われるので近くの動物病院にご相談ください。上の写真の猫は高血圧の猫です。左右の瞳孔が開き気味なので血圧を測定してみたら高血圧でした。失明しないように積極的な治療をします。
ということもありえます。
動物用血圧計が当院になかった過去は、血圧測定なしでエリスロポエチン製剤を投与したこともありましたが、
動物用血圧計を準備した現在は、原則として血圧測定をした猫にしかエリスロポエチン製剤を使用しないようにしています。
以上、猫の血圧測定についての2023年振り返りでした。
猫、特に高齢猫の血圧を測定することの重要性は近年増していると思います。
(ヒトのように家庭でかんたんに血圧を測定できないので)
(血圧計のある)どこの動物病院でもよいので、定期的に病院で猫の血圧を測定してみたらどうかなと思います。
猫の血圧のことで診療をご希望のオーナー様は必ず副院長指名での来院をお願いいたします。