ネコの糖尿病治療

久しぶりにネコちゃんの糖尿病関連の記事になります。

過去の記事でフリースタイルリブレについて書いているので今回はリブレについては何も書きません。

ネコの糖尿病治療で日ごろ思っていることを書いていきます。

思いつくまま書いていたらめちゃくちゃ長文になったので時短したい場合は太字だけ読んでください。

①猫の糖尿病治療の目的

 どんな病気でも「なんのために治療しているのか?どこかにあるゴールを目指すためなのか?そもそもゴールはあるのか?」

 こんなことをはっきりさせとかないと治療を継続することが難しいと思うので私は治療目的をオーナー様といっしょに共有しようと思っています。

 とくに内分泌疾患というのは治療期間が長くなる疾患なので「なんのためにずっと毎日治療しているのか?」の認識が重要だと思います。

では、

猫の糖尿病治療の目的はなにか?というと

一言で言えば糖尿病の臨床症状の改善になります。

 臨床症状とは、多飲・多尿、多食、体重減少、元気消失のような症状になります。臨床症状の改善とともに合併症の回避(低血糖症、ケトアシドーシスなどを回避)も治療目的の一つになるかとは思います。

この目的のために、

一日を通して血糖値を尿糖の閾値以下でなるべく維持(尿に糖が出ないようにする)

することが必要になります。

血糖値を尿糖の閾値以下で維持するために、

 全身状態の改善や基礎疾患の治療。食事療法そして基本1日2回皮下注射でのインスリン治療が必要になります。

では、

猫の糖尿病治療のゴールはなにか?
~糖尿病の場合ゴール設定が難しいと思うのですが…~

尿糖の閾値以下に血糖値をコントロールし続けること

もしくは

猫の場合は寛解を目指し寛解を維持すること

この2つを私はゴールとして考えています。

②猫の糖尿病における寛解(治る?)って何?

先ほどから寛解という言葉がでてきていますが

猫の糖尿病でいう寛解状態とは

 糖尿病と診断されてインスリン治療を開始した後にだんだんとインスリンが必要なくなり、インスリン治療なしで1か月前後、正常な血糖値を維持する。

「もう治っちゃった!!」かのように見える状態。

のことをいいます。
~ここでは寛解のメカニズムについては割愛します~

 誤解されているオーナー様もたまにいらっしゃいますが寛解は治った(完治した)わけではありません。治ったように見える(寛解)だけです。
~ほんとに治ったかどうかは時間軸を長くして経過をみてみないとわかりません~

 糖尿病が寛解したことは喜ばしいことではあるのですが、治ったわけではないので、再発の可能性と糖尿病の臨床症状をよく観察していく必要があります。

そして、

猫の糖尿病では「寛解」があるからこそ

 インスリン治療中にせめて月に1度は身体検査・血糖値検査をすることをおすすめします。

状態が安定しているからといって検査なしで薬だけを続けるのは危険です。

「いつのまにか寛解しているのにインスリンを打ち続ける」

ことは低血糖を引き起こしてしまうこともあります。

③猫の糖尿病治療の具体的な目標

・寛解を目指して糖尿病治療を開始する場合

 食事管理を厳格にしたうえで血糖値の目標範囲を比較的低めに設定(血糖値80mg/dl~180mg/dl程度)してインスリン治療を開始します。

けっこうストイックな治療になり、

しかも

低血糖のリスクもあるので

初めて糖尿病を診断された猫ちゃん

なおかつ

オーナー様の強い希望・意志がないかぎり私はストイックな治療はしません。

↑低血糖の症状=無気力、元気消失、ふるえやふらつき。ひどいと昏睡状態 食欲不振、嘔吐などになります。糖尿病治療開始時には、低血糖が起きた時の家庭での応急処置・対策としてブドウ糖液をお渡ししています。

・臨床症状の改善を目指して糖尿病治療を開始する場合

 ある程度食事に気を使っていただいたうえで血糖値の目標範囲をゆるめに設定(血糖値100mg/dl~300mg/dl程度)してインスリン治療を開始します。

「尿糖がでなきゃいいや」というスタンスでゆるめの治療をしていきます。

ゆるめの治療といっても、

 私の実感で2~3割の猫ちゃんがこの治療でも寛解していると思うので、けっして悪くはない治療かなと思っています。

猫の糖尿病治療は

 猫の性格・食生活・生活サイクル・体格・併発疾患やオーナー様の考え方・生活サイクル・モチベーションなどに大きく左右されるために思い描くようにはいかないことも多々あります。

「厳格にこうしなきゃ!」ではなくその都度柔軟な対応が大切かなと私は思っています。

④猫の糖尿病の食事管理(糖尿病のフード管理)

食事(フード)管理は糖尿病の治療の大きな柱の一つです。

 インスリン治療に食事管理(食事療法)を組み合わせることでインスリンの必要量もさげられるし、寛解率もあがります。

 糖尿病の栄養管理の基本は高タンパク低炭水化物の食事です。理想的な栄養組成の特別療法食については各社いろいろ発売されています。糖コントロール(ロイヤルカナン様)、m/d(ヒルズ様)などです。

糖コントロール(ロイヤルカナン)のサンプル

↑糖コントロール(ロイヤルカナン様)のサンプル。当院でも食事管理を積極的にしようというオーナー様にはまず糖コンのサンプルをお渡ししています。サンプルには糖吸収速度が穏やかな炭水化物(大麦)を原料として使用」「タンパク質を増量しています」と書かれています。

 決められた量を決められた時間に食べきることによって血糖をスムーズにコントロールできます。食事量や食事内容は治療が軌道に乗るまでそのままにしておいたほうがよいと思います。

 おやつみたいなものを何かあげるとしたら、ゆでたササミみたいなMr.タンパク的なものがよいとは思います。

ここまでは食事管理の正論というか理想論になります。

 私はこのような食事管理をできるならしたほうがよいと思うし病気のことだけを考えればすごくよいことだと今でも思ってはいます。

数年前まではこのような理想論に私は固執していたと思います。

どうにか工夫して食事を変更して制限をかけることを考えていました。

ただ、今はあんまり食事については厳格には気にしていません。

 なんで気にしなくなったかというと、私たち人間もそうなんですが、食事を制限したらどこかで無理がでる!と思うからです。

 食べることは生きることであり、幸せを感じる瞬間です。

私も中年になり、周りの様々な年代の人たちに糖尿病や予備軍みたいな人が増えてきました。

そんな方々の話を聞くとけっこう食事管理についてはゆるいです。

「薬飲んでるから大丈夫」的なことをいってみなさん日々楽しく飲食してます。
~ほとんどが飲み歩く中で知り合った方々なので話の母集団にかなりのバイアスがあるとは思うのですが(笑)~

人間にもできないことをかんたんに猫に要求できません!

コロナ禍をみてもわかるように厳しい制限なんて長く続けられるわけありません。

 ということでオーナー様には治療開始の時にいちおう理想論の話はします。無理なくできるようならそうしたらいいしそれがベストです。実際に糖尿病フードに変更してなんのストレスなく継続されているオーナー様や猫ちゃんもいます。

 でも、多頭飼いのためにできなさそう・食いしん坊なのでできない!もしくはできなかった!のなら「できることから…まず一つでも食事のことをなんか意識してみよう!」と伝えます。

結果として、食生活がなにも変わってないといこともなくはないですが…。

 たとえ、ゆるい食事管理だとしてもインスリン治療により日々元気に過ごしている猫ちゃんを多数私は担当させていただいています。

 寛解した後に、食事管理ももうすこし踏み込んでやってみよう!と意識が変わるオーナー様もいらっしゃいます。

 ゆるくやりつつ、食事へのオーナー様の意識が少しでも変わっていけばそれでよいと私は思います。

 糖尿病は何年にもわたる治療になります。せめて食事制限のストレスはないにこしたことはありません。

とはいえ、食事管理を完全に野放しにしているわけではなく、

 定期的に猫の状態をモニタリングしながら、適宜食事内容を修正しながらゆるくやっていくのが結果的によいかな?と私は思います。

以上、④糖尿病の食事管理については完全に私の個人的な見解なので参考程度にしてください。

⑤プロジンク

 猫の糖尿病治療で使うインスリンなのですが、当院ではランタスとプロジンクを使用しています。

ランタスは猫の糖尿病でかなりポピュラーなお薬です。

 ランタスでの治療は寛解に関連する因子のひとつであり寛解率が他のインスリン製剤に比べて高いという報告もあります。ただ、人体薬になるのでその使用は適応外使用になります。

 獣医療界で広く使われ結果を出しているお薬なので適応外使用にはなりますがランタスはエース級の活躍をしてくれています。

それに比べてプロジンクは日本で唯一の動物用医薬品 猫用糖尿病治療薬になります。

ランタスとプロジンク

↑ランタスは無色透明な液体。プロジンクは濁った液体になります。プロジンクは使用前にバイアルを転倒混和して一様な液体に必ずします。この時、絶対力強くシェイクしないでください。インスリン製剤はどれも繊細な液体になります。もちろん両者冷蔵庫保存です。

ランタスとプロジンクではインスリンの最大効果時間がすこし異なっています。

 プロジンクの最大効果は投与後7時間前後となっておりランタスより短くなっています。どちらも持続型インスリンなので持続時間はどちらも長ければ24時間くらいあります。

そういう薬効理論を置いといて私の感覚の話になりますが、

ランタスの方がダラダラずっと効いているイメージがあります。

 そのダラダラ感のためうまく血糖コントロールできないなぁという猫ちゃんにはプロジンクを使用しています。

 逆にそのダラダラ感のためうまく血糖コントロールできるということもありその場合はランタスを使用します。

場合によりけり使い分ける感じです。

 プロジンクを使用してみて結構いいお薬だなと思うこともあるので条件によってはプロジンクをファーストチョイスしてもよいかなと思っています。

 プロジンクは専用シリンジを使用して皮下に投薬します。この専用シリンジが0.5単位刻みになっているので細かい用量調整が可能というメリットがプロジンクにはあります。

プロジンク専用シリンジ

↑上がプロジンク専用シリンジ。下がランタスで使用するBD社のロードーズシリンジ。プロジンク専用ではメモリが0.5単位刻みになります。ランタスとプロジンクでは使用する注射器が違いますのでお気を付けください。

⑥最後に

 猫の糖尿病治療は治療を左右する因子がいっぱいあってなかなかうまくいかないこともあります。うまくコントロールしたと思っていても急に寛解したり、血糖値があがったりと予期せぬことも多々起きます。

 ちょっとした変化に真っ先に気付けるのはオーナー様だと思うので糖尿病治療中は猫ちゃんをよく観察(尿量や飲水量、元気や食欲)していただきたく思います。それとともに定期的な獣医師によるモニタリングにも協力していただきますようお願い申し上げます。

↑フリースタイルリブレについてはこちらを閲覧してください。

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2022年06月26日