2024年を迎えてから早4カ月経過しようとしています。
今回は、毎日のように当院でしている猫の糖尿病の診断・治療を通してこの4カ月間で思ったこと、感じたことを書いていきます。
なお、今回の記事は一度に書ききれなかったので前後編になります。
①猫の糖尿病は治るのか?
猫の糖尿病を診断した時にオーナー様から、
「猫の糖尿病って治りますよね?」
「猫の糖尿病って治ることもあるんですよね?」
というようなことをよく質問されます。
手短に答えられる質問ではないのですが、
「治ることはある」
と、とりあえず答えるようにしています。
ただし、
オーナー様が言うところの「治る」が「根治(治癒)」を指しているのか「寛解」を指しているのかによってもその答えは変わってきます。
もし、
オーナー様の言う「治る」が「再発のない根治(治癒)」を指すならば、
「なかなか治りませんよ」という答えになるだろうし、
~猫の糖尿病が完全に治る=根治(治癒)という例はなくはないですが少ないです~
~寛解状態が2年継続すれば根治(治癒)と言えなくもないとは思いますが…~
オーナー様の言う「治る」が「寛解」を指すならば、
言い換えると、
オーナー様の言う「治る」が
糖尿病の症状がなくなりインスリン投与なしでも正常に近い血糖値をなんとか維持していけるような状態(=寛解)
を指すならば、
「治ることもありますよ」という答えになります。
猫の糖尿病で言うところの「治る」は根治ではなく寛解であるとオーナー様には捉えていただきたいと思います。
②寛解した猫の特徴は?
寛解することもある猫の糖尿病ですが、どんな猫でも寛解するわけではありません。
~当院における実感では猫の糖尿病症例の寛解率は約20%です~
寛解することなく、インスリン製剤を用いて長期維持治療をしている猫が多数です。
では、
寛解するorしないについて診断・治療の上で何か違いがあるのでしょうか?
ここでは寛解した猫の特徴を私なりに思い返してみます。
~ただの経験談です~
特徴1 食事管理をしっかりできた猫
以前の記事でも私の考えを書きましたが私は糖尿病の猫に対して食事管理を厳しく要求しません。
食事管理の重要性をオーナー様にお話しますが、それはあくまで理想の話であって無理にすすめることをしません。
~寛解率向上のためにも食事管理した方がよいとは思いますが、「絶対すべきもの」とは私は全く考えていません~
~もちろん、食事管理できるオーナー様であるならばきちんと指導しています~
インスリン製剤を投与しながら、今まで通り気の向いた時に食べたいものを食べたいように食べる!でもよいと思っています。
そんなやり方でも血糖をほどよくコントロールできて元気に明るく楽しく生きている猫が当院では多数存在します。
ただ、
オーナー様の中には食事管理を熱心に取り組んでみようという方も存在します。
このようなオーナー様は、たとえば…
糖コントロールやm/dといった特別療法食をできる限り時間や量を意識して猫に食べさせています。
↑当院で唯一扱っている猫糖尿病特別療法食。フードの名前がわかりやすいのでよく使用しています。糖尿病特別療法食は様々存在しますがどれが特にいい!というのはないので気に入ったものを食べていただければと思います。
その効果は確かなもので、
インスリン治療に加えて食事管理もすると血糖コントロールが安定しやすいことはまぎれのない事実です。
そして、
寛解に導きやすいことも私の実感としてあるし、そのような報告もあります。
猫の食事管理は糖尿病の寛解率を向上させます。
特徴2 糖尿病の早期発見
今更言うまでもなく、どんな病気でも早期発見早期治療は重要です。
(早期発見早期治療できずに、)
糖尿病の病態が糖尿病性ケトアシドーシスまで進行してからの治療は猫にとってもオーナー様にとっても負担の大きいものになります。
また、
そこまで進行していなくても、糖尿病の臨床症状があるのに(orそれに気づかずに)オーナー様判断でずっと様子をみた猫の治療も同様に負担が大きくなります。
そして、
私の経験上の話ですが、上記のように早期に治療に入れなかった猫は寛解に導きにくい印象があります。
逆に、
多飲多尿に気付いてすぐに来院→各種検査により糖尿病と確定診断→食欲・元気を維持した状態で治療開始
こんな感じで早期発見からの早期治療をできると寛解する猫は多い印象です。
猫の糖尿病の早期発見早期治療は糖尿病の寛解率を向上させると思います。
特徴3 速やかな血糖コントロール
特徴2の早期発見早期治療の話に近いですが、
早期発見からの治療後にすんなり素直に(適切な範囲内に)血糖が下がって、インスリンの必要量もすんなり決まった猫
さらに、
低血糖のリスクを背負いながら、血糖値200mg/dL以下で厳密に血糖コントロールできた猫
このような猫では、次第にインスリン必要量が減少していき寛解する猫を経験します。
早期発見早期治療からの厳密な血糖コントロールは糖尿病の寛解率を向上させます。
とはいえ、
厳密な血糖コントロールというのは低血糖のリスクと隣合せのため、どんな猫でもできるわけではありません。
外を中心に活動している猫や地域猫などでは、厳密なコントロールをしようとは思いません。
~人の目が届かないために低血糖時対応が遅れるからです~
そういう時は、
いい意味でルーズな血糖管理を私は目指しています。
特徴4 インスリン抵抗性を除けた猫
難しい話にはなりますが…
猫の糖尿病の原因の大部分は、
インスリン抵抗性とインスリン分泌の低下に起因するものです。
インスリン抵抗性=インスリンの効きが悪くなること
と捉えていただくと分かりやすいと思います。
犬のように膵臓のβ細胞が完全にぶっ壊れて全くインスリンがでなくなることから発症することはそんなにありません。
インスリン抵抗性の原因は様々ですが、
肥満はインスリン抵抗性を生む=インスリンの効きが悪くなる最もポピュラーな原因になります。
~私の超個人的見解ですが、7㎏を超えた中高齢の猫は高確率で遅かれ早かれ糖尿病を発症するといっても過言ではありません~
要するに、
肥満の猫は糖尿病になりやすい!ということです。
このことを逆に考えると
肥満を改善することにより、インスリン抵抗性も改善することになって糖尿病が寛解することもある!とも言えます。
実際の例では、
過度に肥満な猫において、食事管理で体重を少しづつ落としつつインスリン治療をしていると…
だんだんとインスリン必要量が減少していき→寛解に導けた
ということも起こります。
とにもかくにも、
肥満は猫の糖尿病のリスクをかなり上昇させます。
インスリン抵抗性の原因は様々あるので肥満に限らずそれらの原因を取り除くことは寛解の上でも治療の上でも重要です。
インスリン抵抗性を念頭にした猫の糖尿病治療は重要だなぁとここ最近私はしみじみと感じています。
③寛解は再発もありうる
猫の糖尿病でいうところの「治る」は根治ではなく寛解であるために、当然再発することもあります。
~再発することを前提に考えた方がよいと思います~
なので、
「寛解したから家でインスリンうたなくていいし、もう定期的に通院しなくていい。よかった♪」
とはなりません。
寛解した猫のオーナー様には、
「水を飲む量や尿量などを今後もよく観察してください。何でもいいので些細な変化に気づいたら病院にすぐに連絡してください」
と私は伝えるようにしています。
そして、
「可能であれば、定期的に通院して血糖値やフルクトサミンの値を測定していきましょう」
ということも提案しています。
血液検査までしなくても、通院時に体重を記録するだけでも意味があると思うので気軽に通院していただきたいと思います。
しつこいようですが、
寛解とは根治(治癒)ではありません。
寛解したとはいえ、β細胞からのインスリン分泌は不安定なためにちょっとしたきっかけで再発します。
猫の糖尿病関連の過去記事まとめ