ネコの糖尿病2024~後編~

 前編では「猫の糖尿病は治る(寛解する)のか?」を中心に記事を書きました。

 後編ではそれ以外のトピックについて2024年の約5カ月間で思ったこと、感じたことを思いつくままに書いていきます。

 なお、全て私の個人的見解です。

①FreeStyleリブレについて

 当院おたよりで以前に紹介したFreeStyleリブレですが、現在当院ではほとんど使用していません。

たしかに、

 FreeStyleリブレはすばらしい連続血糖測定器です。

 センサーにリーダーをピッとするだけでリアルタイムで血糖値測定できる、しかもノーストレスで。

 インスリン治療の導入時にはもってこいの測定器だと思います。

ただ、

 猫への使用には難点があるなぁと感じだして以来、私は積極的に使用することがなくなりました。

 FreeStyleリブレを猫に使用することによって私が感じた難点を2点挙げます。
 ~FreeStyleリブレ2は使用したことがないので最新バージョンについてはわかりません~

難点1 うまく測定できないことがある

 FreeStyleリブレはヒト用に設計された測定器です。

なので、

 (私の憶測ですが)猫においていつもいつでもうまく測定できるとは限らないと思います。

 実際、最初からうまく測定できないことがありました。

 リブレセンサーは装着後約2週間、リーダーで測定し続けられるはずですが2週間測定を継続できない例も経験しました。

 極端に肥満している猫、脱水している猫などではうまくいかない印象です。

 猫の皮下でセンサーフィラメントが折れてしまって測定できなくなったこともありました。

 ちゃんと血糖測定できることの方がもちろん多いですが、猫によっては測定できないこともある…
 ~「リブレを装着したものの測定がうまくいかないんですが…」という電話相談を当院記事を読んだ他県の方からもらったこともあります~

 装着した初っ端から測定不可だった場合、リブレセンサーは費用が安いものではないので「もう一回装着しなおしましょうか?」と私は言いづらいです。

 FreeStyleリブレを使用するにあたって、

 (仮に稀な事象であれ)装着したが測定できないorし続けられないかもしれないことが臆病な私には怖すぎます。

 このことが難点だと思います。

難点2 血糖が手軽にわかりすぎる

 血糖が手軽に測定できることがFreeStyleリブレ最大の利点なのですが、それが欠点にもなりうると私は思います。

 あまりに手軽に測定できるために、オーナー様が一日に何度もリーダーでピッ!ピッ!としすぎてその血糖値に一喜一憂するケースを経験したことがあります。

極端な話ですが、

 血糖値という数値ばかり見てるけれど猫の様子はよく見ていないということが起きるかもしれません。

 気軽に測定でき過ぎて数値に振り回されることがある

 ということも難点だと思います。

②どのインスリンがよいのか?

 猫の糖尿病治療でよく使用されるインスリンといえば、ランタス・レベミル・プロジンク(全て商品名)の3つじゃないかなと思います。

 この中でどれが一番よいのか?という質問をたまにオーナー様からされますが、その質問は抽象的過ぎて答えようがありません。

その質問がもし、

 この中でどのインスリンで治療すればよいのか?というものであれば

 使用する獣医師の経験や慣れ、病院の方針はもちろんのこと、それぞれの猫の状態にフィットするかしないかを考えてインスリンの種類を決定します。

 と答えられます。
 ~当たり障りない答えですが…~

③プロジンクで治療

 当院では、現在プロジンクを第一選択薬として猫の糖尿病治療をしています。
 ~昔はランタスを(獣医師の裁量権で)第一選択薬として使うことが多かったのですが…~

 私がプロジンクで治療するようになった理由の1つとして、

 犬猫用医薬品として承認された動物薬を使用したいから
 ~他にもいろいろ理由はありますが…~

 ということがあります。

 プロジンクは、犬猫の糖尿病による高血糖及び高血糖に起因する臨床症状の軽減を効能・効果とする動物用医薬品です。

なので、

 猫の糖尿病治療に使用することは適応内使用になります。

↑なんの変哲もないプロジンクのバイアルとシリンジ。プロジンクは40単位/mlなのでランタス(100単位/ml)に比べて濃度の薄いインスリンと言えます。濃度が薄いだけに、よく言えば細やかな用量調節ができる、悪く言えば費用面でランタスより難がありという感じです。10kgオーバーの猫にはプロジンクは費用面で使いにくいと思っています。

 なんのエビデンスもない私の感想ですが、

 プロジンクはランタスと比べてもそん色ないくらいに、糖尿病猫の血糖をいい塩梅でコントロールできる例が多いです。

④ランタスで治療することも…

ちなみに、

 私はプロジンクを猫糖尿病治療の第一選択薬としていますが、猫の状態へのフィット感によってはランタスで治療することももちろんあります。

 私がプロジンクだけを使っているわけではありません。
 ~余談ですが、レベミルは生涯一度も使用したことはありません~

そもそも、

 インスリンを一つに絞って使用していく

例えば、

 プロジンクのみしか使わない

 というような使い方は恐ろしくてできません。

なぜならば、

 プロジンクの供給が不安定になった時に替えが効かないからです。

 ランタスにしてもプロジンクにしても急に流通が止まることがないとは限りません。

 実際、今までに特定のインスリンが入手困難になったこともあります。

そういう時に備えて、

・治療選択肢を複数にしておくこと
・どちらのインスリンも使える知識と経験を常時備えておくこと

 が必要であると私は思っています。

⑤食事療法だけでは…

 オーナー様の中には、「毎日、家で猫に注射できるか不安だなぁ」と思う方も存在します。

そういうオーナー様に対して、

 昔当院では、「まずはせめて食事療法だけでもしてみましょう」ということで食事療法から始めることもしていました。

 現状、元気食欲があって合併症をみつけられない。でも持続性の高血糖がある。

 特にこのような猫に食事療法単独でまずは治療してみることもありました。

しかし、

 食事療法単独では治療がうまくいきませんでした。たとえ厳格にしたとしても…
 ~あくまで私の経験の中だけの話です~

 高血糖が改善されないばかりか、糖尿病が悪化することもありました。

 他院で食事療法単独治療をしていた猫が時々当院を受診することがありますが、やはり治療がうまくいっていません。

ということで、

 私が主治医として診療する限り、猫の糖尿病を食事療法単独で経過観察することは現在当院ではしていません。

 食事療法をするなら、インスリン療法と併用します。

 インスリン療法と食事療法をするうちに糖尿病が寛解
      ↓
 食事療法だけにしてみようか

 はありますが、

 最初から食事療法だけというのはうまくいかなかった経験ばかりなので原則しません。

⑥家庭での注射のこと

 ⑤でもすこし書きましたが、家庭でインスリンを注射することに不安感を持つオーナー様はけっこう存在します。

「ちゃんと注射を打てるかなぁ」
「猫に嫌われないかなぁ」

 といった不安な気持ちから

「インスリンによる治療はやめておこうかなぁ、どうしようかなぁ」

 と悩むオーナー様も存在します。

 このようなオーナー様に私の経験から言えることは、

 老若男女関わらず、どのオーナー様も治療開始から1か月も経てば上手に注射できている

 ということです。

 最初、注射できるか不安で悩んでいたオーナー様もいざやってみると問題なく注射できるようになります。

 100%のオーナー様が問題なく注射できるようになっているといっても過言ではないと思います。

 早いオーナー様であれば1週間程度でコツをつかんで確実に注射ができています。

 私が驚くほどに皆様日々の家庭での注射を上手にできています。

そして、

 猫に嫌われることなく日々の注射を継続しています。
 ~猫からすすんで注射にやってくるという話もよく聞きます~

インスリン療法を始める際は、

 シリンジの使い方や皮下注射の方法などの治療ノウハウをわかりやすく私や愛玩動物看護士から説明いたしますので、安心して治療に取り組んでいただけると思います。

⑦インスリン療法の心構え

「いつも注射している時間から今日は少し遅れてしまったんですが大丈夫ですか?」
「12時間おきにきっちり注射するのが難しい。こんなんで大丈夫ですか?」
「夜、注射するの忘れてしまったけどどうしたらいいですか?」

 自宅でのインスリン療法においてオーナー様から上記のようなことをよく質問されます。

 (注射の)時間について悩むオーナー様は少なからず存在します。

 全ては私の説明不足から引き起こされる悩みだと思うので深く反省しています。

では、

 注射し忘れたり、時間に遅れたり、早かったり、毎日時間がバラバラだったり…

 こんな時はいったいどうしたらいいのでしょうか?

その答えは、

 「まず主治医の先生に相談してみてください」としか言えないので詳しくは割愛しますが
 ~個々のケースで主治医が適切な対処法を判断してくれるはずです。この場で全てのケースについてベストな解答は書けません~

そもそも、

 私たちはロボットではないので毎日定時きっかりぴったりに注射し続けられるわけがありません。

 毎日、仕事もあるし家庭の用事もあるし予期せぬことも起こりえます。

 たんたんと続くノーマルデーと思いきや、ラッキーデーやバッドデーもあります。

なので、

 猫の糖尿病長期治療中のオーナー様には、

 この時間に注射しなければいけない!という思考をやめていただきたい

 と私は思います。
 ~特にインスリン治療が安定した後では~

 だいたいの時間で大丈夫です。

 決めた時間からプラマイ2時間程度のズレは私の中で全然許容範囲です。
 ~私の経験から導かれただけで、なんの根拠もない2時間という数字ですが…~
 ~上限下限に遊びを残して血糖コントロールするように私はしているので時間ぴったりでなくても問題ないです~

 (今日はいろいろと忙しくて)いつも注射する時間から5時間以上経過してしまったならば、1回お休みして明日の朝からまた注射しよう♪

 で大丈夫なこともあります。

 猫の糖尿病長期治療は年単位で長く続いていきます。

 ~しなければならない!~するべきだ!~しなくちゃいけない!

 みたいに考えてたら多分途中で疲れます。続きません。

 治療がオーナー様の心的ストレスに変わるかもしれません。

食事についても同じで、

・おやつ食べちゃいけないのに食べちゃった
・食べちゃいけない時間に食べてしまった
・今日食べるべき量を食べてない

みたいな、

・この食事を食べなければいけない!この量を朝晩絶対食べなければいけない!
・間食は避けるべきだ!高タンパク質/低炭水化物厳守!

 という思考もやめていただきたいと私は思います。
 ~特にインスリン治療が安定した後では~

 寛解を目指したい!きっちり管理していきたい!という強い思いがなければ

 食事もだいたいで全然いいんです。

 自分に置き換えてみてください。

 毎日、朝晩2回定時に完全メシの大豆グラノーラだけを定量食べていく。しかも一生。
 ~極論ですが…~

 そんな生活で豊かな人生送れますか?

 完全メシばかりでは心の栄養が不足します。

 仮に病気のためだったとしても、こんなギチギチな食生活は私は絶対嫌です。

 多少のアソビ心は必要です。

 猫の糖尿病長期治療に対する私の超個人的見解ですが、

 がんじがらめで少しのズレも許せない気持ちで治療をするよりはだいたいでゆる~く治療したほうが結局のところ猫も人間も幸せになれると思います。
 ~もちろん猫糖尿病の病期をしっかり把握していることが前提です~
 ~決して全ての病気でゆる~~く治療すればいいと言っているわけではありません~

 ぜひ、肩の力を抜いてリラックスして猫の糖尿病と闘いましょう。

 猫の糖尿病長期治療にあたって、「こういう心構えもあるんだな」程度のことをこの記事を通してわかっていただけると幸いです。

 当院で猫の糖尿病治療を希望されるオーナー様は副院長指名での来院をお願いいたします。


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猫の情報
2024年05月28日